現役弁護士によるスマートコントラクトの概観

 ビットコインなどの暗号通過に続くブロックチェーンの活用として、スマートコントラクトが話題にのぼることが多くなりました。今回は、弁護士として日常的に「契約」に携わっている経験も踏まえながら、スマートコントラクトを概観します。

スマートコントラクトとは

 スマートコントラクトとは何を意味しているのでしょうか。ウェブサービスの利用規約のように、インターネット上の合意で成立する契約(電子的に成立する契約)とは何が違うのでしょうか。また、ブロックチェーンはどのように活用されるのでしょうか。

 現在、スマートコントラクトは世界で実証実験が行われているような状況であり、その定義も明確には定まっていません。様々な定義の試みがあり、コンピューター・プログラムを利用した契約という点では理解が共通しますが、暗号化技術の使用に着目するもの、ブロックチェーンの特徴である分散型台帳の利用に着目するもの、プラットフォーム上で契約が執行されることに着目するものなどがあります。

 例えば、昨年英バークレイズ銀行がUniversity College Londonと共同で公表したリサーチペーパー(https://arxiv.org/pdf/1608.00771.pdfでは、an agreement whose execution is both automatable and enforceableとされ、少なくとも何らかの締結自動化が図られた契約という形で、幅広な捉え方がなされています。

 ウェブサービスの利用規約などは、通信ネットワークを利用して「サインレスで」成立する契約ですが、あくまで、自然言語で書かれた利用規約の承認という人間のアクションによって契約が成立するものです。料金の支払いなどの契約の履行も、銀行振込などによって行われ、不履行があれば裁判所等を通じた回収行為が必要です。

 これに対して「スマートコントラクト」は、契約の締結と履行(あるいは少なくともその一方)がコンピューター・プログラムによって自動的に行われる(完全自動でなくても、少なくとも一定程度は自動化されている)ものであるという理解になっていると思われます。

スマートコントラクトのブロックチェーンとの関連

 締結又は履行が自動化された契約という意味であれば、スマートコントラクトは、必ずしもブロックチェーンを利用するものに限らないことになります。しかし、実際にはブロックチェーンへの注目度の高まりに伴い、その活用例(ブロックチェーン2.0、3.0等)として注目されている状況です。

 ビットコインのブロックチェーンについて既に多く解説されているとおり、ブロックチェーンにおける権利の記録は、過去から現在に至る権利移転のトランザクションデータが全てつながっており、参加ノードによるブロック認証を経て偽造変造が事実上不可能となった状態で、各参加ノードに公開されているという特徴を有します。

 ブロックチェーンのこのような特徴を利用して、契約に要求される契約内容の真正担保や、契約に基づく権利の移転の確実性を持たせることができれば、自動化による取引コストの削減と契約実行の確実性を、同時に実現することが期待できます。

 このような理由から、スマートコントラクトは何らかの形でブロックチェーンを利用する形態を指すものとして議論されているのが現状です。

 

ブロックチェーンの活用状況

 ブロックチェーンの仕組みの方から、スマートコントラクトを見た場合、ビットコインのトランザクション情報の空きスペース等に、ビットコイン以外の権利の情報を書き込むことによって、その権利の移転や保有証明にビットコイン・ブロックチェーンを利用するというアイデアがあります(いわゆる「カラードコイン」)。

 また、ブロックチェーンをメインチェーンとする「サイドチェーン」の活用も提唱されており、安定的な稼働実績のあるビットコインのブロックチェーンシステムを、スマートコントラクトに利用できるなどのメリットがあります。

 スマートコントラクトを実装しているブロックチェーンとしては、Ethereum(イーサリアム)が代表的です。イーサリアムは、ビットコインとは異なる独自のブロックチェーンシステムを持ち、仮想通貨としての側面に加えて、スマートコントラクトを実装するアプリケーションを開発・実行するためのプラットフォームとしての機能を有します。

 イーサリアムにおいては、ユーザーは開発されたスマートコントラクト・アプリケーションを使用してスマートコントラクトを締結することができ、その締結及び履行は特定の第三者の介在を要することなく、ブロックチェーン上で行われることが基本となります。このようなアプリケーションは、Dapps(Decentralized Applications)と言われ、下記のサイトで今どのようなDappsが開発されているかを見ることができます。

http://dapps.ethercasts.com/

 これら以外にも多様なブロックチェーンシステムの新規開発が期待されており、今後様々なスマートコントラクトのプラットフォームが登場する可能性があります。

スマートコントラクトにより契約書はどうなる?

 スマートコントラクトが実現すると、契約書に署名押印したり、裁判所が契約書を解釈して履行を命令したりすることは、不要になるのでしょうか。

 スマートコントラクトの典型例として、自動販売機がよく挙げられます。飲料メーカー側の売買契約申込(=自販機の設置行為)に対して消費者が承諾(=硬貨投入とボタン)することで契約が成立して、これに機械が反応して自動的に履行(=飲料交付)がされますので、上に述べたスマートコントラクトの概念にあてはまります。

 しかし、実際の契約にはどんなものがあるでしょうか。自動車の売買、不動産の売買、家の賃貸借、雇用契約、システム開発委託契約、ライセンス契約、販売代理店契約、株式譲渡契約、投資契約、企業買収契約などなど、数え切れない種類の契約があります。また、一般的に契約書の内容には、大まかに言っても(1)当事者が誰か、(2)目的である資産、(3)取引の前提条件、(4)取引の実行時期、(5)取引決済の方法、(6)対価の金額や計算方法、(7)守秘義務などの誓約事項、(8)契約違反時のペナルティ、(9)準拠法・裁判管轄、といった事項が規定されます。

 

 契約の種類や内容、背景事情は様々であり、あらゆるパターンの契約を一切人手を介さずに締結・履行するということは現実的に難しいと考えられます。また、自然言語による取り決めは、100%用語の定義がなされるものではなく、文化を背景とした解釈の余地が残る面があります。このような、ある種曖昧な部分をプログラムで表現することは難しい面があり、そのような点でも、契約書や裁判所がすぐに不要になる訳ではないと言えます。

 しかし、本来契約とは一定の権利義務を導き出すための条件を文章化したものであり、性質上コンピューターコードで書けないというものではなく、100%客観的に明確な合意形成ができるなら、複雑な契約でもプログラムによって締結することが可能になると思われます。そのため、比較的単純な取引から、順次スマート化が進んでいくことは十分期待できます。

仮に契約締結自体が人為的に行われる場合でも、不動産登記、株主名簿などの権利証明の部分がブロックチェーンに置き換わっていくことで、契約の履行が瞬時、自動的に行われることは、より早く実現していく可能性があります(登記制度などへのブロックチェーンの活用は、「スマートプロパティ」として別途論点とされていますが、スマートコントラクトの一部として議論されることが多いです)。

 

スマートコントラクトへの期待と課題

 スマートコントラクトの課題のひとつとして、外部(実世界)とシステムのつながりの問題があります。契約条件をコードで表現できたとしても、スマートコントラクト上の当事者がたしかに本人であるのか、「3月31日までにA、B又はCの行為をしたら履行を拒絶できる」といったシステム外の事象に関する条件充足をどのように判別し、入力するのか、といった事項です。

 これらは今後の検討課題となりますが、これらの課題の裏返しとして、IoTと連携したスマートコントラクトの活用が期待されます。

 例えば、冷蔵庫の卵が5個以下になったら自動的にスーパーに発注を行うようなスマートコントラクトは、IoT技術により実世界の状況を検知し、プログラムによる自動発注にリンクさせるモデルケースと言えます。

 ここで、発注データをブロックチェーンに記録して改ざんを困難にすることで、取引の安全性を担保したり、ブロックチェーンに過去一定期間以上の取引履歴のある店舗を発注先に指定できるようにすることで、信頼できる先に発注できるようにしたりという、ブロックチェーンの活用方法が考えられます。

 このようにブロックチェーンがIoTとひもつくことで、スマートコントラクトの課題解消と生活利便性の双方のソリューションになることが期待できます。

 

 以上に述べた点以外にも、自然言語とプログラム言語の橋渡しの問題、プライバシーや契約内容秘匿の方法、紛争時の証拠力の問題、消費者の契約内容の理解の問題、スマートコントラクト締結後の事情変更への対応の方法、スマートプロパティの活用形態など、検討すべき事項は多くあります。

 また、これらの問題点も踏まえて、現実的にどのような形態のスマートコントラクトから実現していきそうかという点も、検討すべきテーマになります。これらは今後の記事で触れていきたいと思います。

 

執筆者
弁護士 林 賢治(k.hayashi@azx.co.jp)
弁護士 池田 宣大(n.ikeda@azx.co.jp)

 

この記事をシェアする:
林 賢治
About 林 賢治 2 Articles
弁護士/AZX総合法律事務所(AZX  Professionals Group)創業パートナーー。東京大学法学部を1995年に卒業後、司法修習を経て1997年弁護士登録、2001年にベンチャー企業をワンストップで支援するAZX Professionals Groupを共同創業。スタートアップから上場に至る各ステージのベンチャー企業を対象に、契約、ジェネラルコーポレート、資金調達、労務、ストックオプション、M&A、訴訟等の法務全般をサポート。ベンチャーキャピタルの投資案件やファンド組成のサポート、証券会社のIPO引受審査のサポートなど、ベンチャー支援サイドの法務案件も数多く取り扱うほか、海外企業との取引契約、海外投資家からの投資案件のサポートなど国際法務も取り扱う。