現役弁護士によるスマートコントラクトの概観

2017年3月3日 林 賢治 0

 ビットコインなどの暗号通過に続くブロックチェーンの活用として、スマートコントラクトが話題にのぼることが多くなりました。今回は、弁護士として日常的に「契約」に携わっている経験も踏まえながら、スマートコントラクトを概観します。 スマートコントラクトとは  スマートコントラクトとは何を意味しているのでしょうか。ウェブサービスの利用規約のように、インターネット上の合意で成立する契約(電子的に成立する契約)とは何が違うのでしょうか。また、ブロックチェーンはどのように活用されるのでしょうか。  現在、スマートコントラクトは世界で実証実験が行われているような状況であり、その定義も明確には定まっていません。様々な定義の試みがあり、コンピューター・プログラムを利用した契約という点では理解が共通しますが、暗号化技術の使用に着目するもの、ブロックチェーンの特徴である分散型台帳の利用に着目するもの、プラットフォーム上で契約が執行されることに着目するものなどがあります。  例えば、昨年英バークレイズ銀行がUniversity College Londonと共同で公表したリサーチペーパー(https://arxiv.org/pdf/1608.00771.pdf)では、an agreement whose execution is both automatable and enforceableとされ、少なくとも何らかの締結自動化が図られた契約という形で、幅広な捉え方がなされています。  ウェブサービスの利用規約などは、通信ネットワークを利用して「サインレスで」成立する契約ですが、あくまで、自然言語で書かれた利用規約の承認という人間のアクションによって契約が成立するものです。料金の支払いなどの契約の履行も、銀行振込などによって行われ、不履行があれば裁判所等を通じた回収行為が必要です。  これに対して「スマートコントラクト」は、契約の締結と履行(あるいは少なくともその一方)がコンピューター・プログラムによって自動的に行われる(完全自動でなくても、少なくとも一定程度は自動化されている)ものであるという理解になっていると思われます。 スマートコントラクトのブロックチェーンとの関連  締結又は履行が自動化された契約という意味であれば、スマートコントラクトは、必ずしもブロックチェーンを利用するものに限らないことになります。しかし、実際にはブロックチェーンへの注目度の高まりに伴い、その活用例(ブロックチェーン2.0、3.0等)として注目されている状況です。  ビットコインのブロックチェーンについて既に多く解説されているとおり、ブロックチェーンにおける権利の記録は、過去から現在に至る権利移転のトランザクションデータが全てつながっており、参加ノードによるブロック認証を経て偽造変造が事実上不可能となった状態で、各参加ノードに公開されているという特徴を有します。  ブロックチェーンのこのような特徴を利用して、契約に要求される契約内容の真正担保や、契約に基づく権利の移転の確実性を持たせることができれば、自動化による取引コストの削減と契約実行の確実性を、同時に実現することが期待できます。  このような理由から、スマートコントラクトは何らかの形でブロックチェーンを利用する形態を指すものとして議論されているのが現状です。   ブロックチェーンの活用状況  ブロックチェーンの仕組みの方から、スマートコントラクトを見た場合、ビットコインのトランザクション情報の空きスペース等に、ビットコイン以外の権利の情報を書き込むことによって、その権利の移転や保有証明にビットコイン・ブロックチェーンを利用するというアイデアがあります(いわゆる「カラードコイン」)。 […]

現役弁護士による仮想通貨(暗号通貨)に関する資金決済法改正についての概要

2017年1月27日 林 賢治 0

ブロックチェーン関連ビジネスにおける法改正の位置づけ 仮想通貨に関する日本における初めての法律案として、資金決済に関する法律(「資金決済法」)及び犯罪による収益の移転防止に関する法律(「犯罪収益移転防止法」)の改正案が昨年成立しました。関連する政令が公表されており、パブリックコメントの結果公表を経て、今年春頃に施行される見込みとなっています。 今回の法改正は、ビットコインに代表される「仮想通貨」に関して、「仮想通貨交換業」に対する規制を新設するものです。ブロックチェーンは、スマートコントラクトなど多様な活用が期待され、暗号通貨以外のさまざまな”Digital Token”の基盤になっていく可能性がありますが、この法改正の対象は「仮想通貨」の定義にあてはまる暗号通貨に限られます。 また、暗号通貨をめぐっては、所有権の対象となるのか、関係業者が倒産したときに利用者がどのように保護されるかといった問題もありますし、デリバティブ取引の対象とされた場合における規制のあり方など、ほかにも複数の法律問題があります。しかし、この法改正は仮想通貨交換業に対する取り締まりという側面のみを規律するものです。 このように、本件法改正がカバーする範囲は、今後普及が見込まれるブロックチェーン関連ビジネスの全体像の中では一部分になります。しかし、日本の法令上「仮想通貨」が定義され、現時点における最大の活用形態であるビットコイン等に対する法的枠組みの整備が着手されたことは、ブロックチェーンの普及促進にとって大きな意義があると思われます。   法改正のポイント 法改正のポイントは以下になります。 仮想通貨の定義 仮想通貨交換業の登録制 仮想通貨交換業者の業務規制 仮想通貨交換業者への監督(以上、資金決済法) 仮想通貨交換業者の本人確認義務(犯罪収益移転防止法) ビットコイン等に関する法的論点は多数ある中で、少なくとも利用者保護及びマネーロンダリング規制は必須との見解が大勢を占めていたところであり、これを法制化するものとなります。   仮想通貨の定義 改正資金決済法において「仮想通貨」は以下のように定義されています(第2条第5項)。 (1) 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの (2) 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの (1)によれば、不特定の者との商品等の代金決済に使用でき、不特定の者との間で売買できる、通貨・通貨建資産以外の財産的価値で、電子的に記録され、電子的に移転できるものが仮想通貨に該当します(「1号仮想通貨」)。また(2)によって、不特定の者との間で(1)に該当する仮想通貨と相互交換できる財産的価値で、電子的に記録され、電子的に移転できるものも、仮想通貨に該当します(「2号仮想通貨」)。 1号仮想通貨の典型はビットコインであり、それ自体では(1)の要件を満たさないものの、ビットコインと交換可能な他の暗号通貨が2号仮想通貨の典型例となります。 ブロックチェーンを用いた暗号通貨は、非中央集権的なシステムによっていることが一般的な特徴とされますが、非中央集権的かどうかという点は要件になっていませんので、中央集権型のものも「仮想通貨」に含まれることになります。   仮想通貨交換業の登録制 […]