ブロックチェーンは音楽著作権管理のあり方を変えるか?

2017年6月20日 久保田 紘行 0

データの改ざんが難しく、誰もが参照可能なブロックチェーンには、実に様々な活用可能性を見出すことができます。その一つが「著作権管理」の分野です。特に音楽著作権は、作詞家、作曲家などの著作者にはじまり、歌手、演奏家などの実演家、レコード製作者、放送事業者など多くの関係者が関わるためより複雑です。そのため、著作権の管理にコストがかかったり、実際に誰が権利を持っているのかが不明確になるといったことも生じています。 直近では、音楽ストリーミングサービス大手のSpotifyはブロックチェーンスタートアップの「Mediachain Labs」を買収し、Spotifyの提供する楽曲とその著作権者をブロックチェーン上で紐付けるための技術開発を進めると発表しました。そこで今回の記事では、ブロックチェーンの活用が音楽著作権の在り方をどのように変える可能性があるのかについて見ていきたいと思います。   楽曲の著作権管理プロセス-使用料徴収と分配 楽曲の著作権は登録などの手続きを必要とせず、著作物を創作した時点で自動的に発生します。著作権法によって著作権侵害は親告罪であると定められているため、著作権侵害行為があった際には、著作権者自身で対処していく必要があります。著作権者は著作物の利用条件を明記した上で、利用条件に沿って「楽曲使用料」を徴収します。 さらに、徴収した楽曲使用料は著作権者だけでなくステークホルダーへの分配を行わなければなりません。特に音楽制作におけるステークホルダーは、前述の通り非常に多岐に渡るため、楽曲使用料の分配は非常に複雑です。 このように各楽曲の著作権を管理する際には、「再生や演奏に際して発生する楽曲使用料の徴収」と、「徴収した楽曲使用料の著作権者やステークホルダーへの分配」という二つのプロセスが存在しています。   著作権管理団体への委託が一般的、しかし課題も 著作権者が自らの楽曲の再生回数をすべてカウントして楽曲使用料を徴収することや、すべての著作権侵害を指摘するのは現実的に考えて非常に困難でしょう。そこで日本では著作権等管理事業法に基づく非営利著作権管理団体であるJASRACが日本のほぼ全ての楽曲の著作権管理を委託されており、楽曲使用料の徴収と分配を担っています。 しかし、JASRACが単独で300万曲以上の楽曲の著作権を管理し、楽曲全ての再生回数のカウントや、YouTube等への違法アップロードの発見、そして徴収した楽曲使用料の公正な分配には、非常に膨大なコストや手間がかかっています。 またJASRACそのもののあり方を問題視する声もあります。JASRACの楽曲管理における手数料が高額であることに加え、徴収した楽曲使用料が公正に分配されているかが不透明であることなどから、利権と化しているのではないかといった疑惑が取り沙汰されることもあります。また昨今ではJASRACが音楽教室のレッスンにおいて楽曲使用料を徴収する方針を決定し、それに対し歌手の宇多田ヒカルさんがTwitter上で反発を表明するなど、本来の著作権者であるアーティストの意向に沿わない形での楽曲使用料徴収が行われているケースもでてきています。 このように、音楽の楽曲使用料徴収には大きなコストと手間がかかります。さらに、日本では現状透明性が担保されていないためにJASRACの仲介に不信感が募ってしまっている状況です。   ブロックチェーンに基づく分散型著作権データベースの構築 ではこの楽曲に関する著作権管理は、ブロックチェーンを活用することでどのように変わるのでしょうか。このとき著作権者は、レコーディングされた楽曲データや楽曲の歌詞・譜面などを含む著作権情報を、自らの手でブロックチェーンに記録します。ブロックチェーン上の記録は改ざんが困難であるほか、記録されたデータは誰もが参照できます。すべての著作権情報をブロックチェーンに記録することで、巨大な「分散型著作権データベース」を構築するのです。 さらにスマートコントラクトを活用することで、楽曲の購入代金や再生回数のカウントに基づく楽曲使用料の徴収から、著作権者やステークホルダーへの収益配分まで、全てをプログラムに従い自動的に実行できるようになります。これによってJASRACなどの著作権管理団体が不要になるばかりでなく著作権管理という作業そのものが自動化されるため、仲介手数料の削減や効率化が大幅に進みます。また収益配分についてもあらかじめ締結された契約に基づくスマートコントラクトによって自動的に実行されるため、ステークホルダー間での収益配分についてより高い透明性・公平性が確保されます。   アーティストが自分で自らの楽曲を管理できる未来へ これらのビジョンを実現しようとしているプロジェクトの一つが、冒頭で紹介したSpotifyとMediachain Labsの取り組みです。このほかにも「Ujo Music」や「Dot BC」といったプロジェクトで同じような取り組みが進められています。 従来非常にコストも手間もかかっていた著作権管理ですが、ブロックチェーンとスマートコントラクトの活用によって、アーティストは自らの楽曲を自分の手で管理することができるようになったと言えるでしょう。つまり、アーティストは自らの楽曲の著作権情報を自分でブロックチェーン上に記録し、自動化された楽曲使用料徴収とその分配を通じて、著作権管理ははるかに効率的に実行できるようになるのです。それだけでなく、著作権管理団体という仲介組織を排すことで、透明性や公平性の確保にもつながっています。 […]

ブロックチェーンは国家を超越するか – Bitnationとエストニアから見る未来国家

2017年4月24日 久保田 紘行 0

中央集権機関による管理を必要としないブロックチェーンには、実に様々な活用可能性があります。ビットコインにおいて通貨発行を担う中央銀行が存在しないのと同じように、政府という最も巨大な中央集権機関をも必要とせず自律分散的に動くのがブロックチェーンの最たる特徴です。 今回の記事では「ブロックチェーンと国家」というテーマで、自律分散的な国家を目指すビットネーション(Bitnation)というプロジェクトと、2000年代から急速に行政サービスの電子化が進んでいるエストニアの事例を合わせてご紹介します。   信頼性を担保する役割としての国家 さまざまな文書の記録やその内容の証明を行うときには、信頼性をどのように担保するかが問題となります。従来は第三者が仲介することで記録の信頼性を担保する必要がありました。しかしながら、改ざんが困難なブロックチェーン上に記録しそれらを参照することで、記録の存在や内容を証明すること(Proof of Existance、プルーフ・オブ・イグジスタンス)ができます。「ブロックチェーンに記録されている」という事実そのものが、信頼性の根拠となりうるのです。 ではこれによって具体的には何が実現できるのでしょうか。第三者が仲介することで信頼性を担保していたものは実に多くありますが、その最たるものに行政による公的認証サービスがあります。例えば、土地の登記や戸籍謄本など、国民や国家に関する実に多くの情報が行政サービスを通じて集中的に管理されています。この膨大個人情報の管理には大きなコストがかかっています。これをブロックチェーンによって効率化することを目指すプロジェクトが存在します。「Bitnation」というプロジェクトです。   Bitnation(ビットネーション)とは? – 公証サービスの自動化 ビットネーション(Bitnation)は、イーサリアムを利用し国家の手を介すことなく様々な認証を自動的に行うプラットフォームを提供するプロジェクトです。いわゆる公的認証サービスとして従来国家が担ってきたものをスマートコントラクトを活用し自動化することで、管理にかかるコストや手間を大幅に削減できます。具体的には土地登記、婚姻届、出生届、死亡届、パスポートなどのID、戸籍登録、財産権の記録などがあります。 Bitnationはインターネットの普及や、輸送にかかる時間短縮やコスト低下などに伴うグローバリゼーションが進行する一方で、国家や国籍が領土と密接に結びついていることを地理的制約であるとして問題視しています。Bitnationは従来政府が担ってきた認証サービスを代替することで、最終的にブロックチェーン上に地理的な制約にとらわれることのない自律分散的な国家を構築することを目指しています。 BitnationによるID発行と行政サービス提供は既に実現しており、国民として登録されていない難民をブロックチェーン上に登録するなどの取り組みも行われています。またネットワーク上に構築された共同体として、投票機能や、スマートコントラクトを利用した民事契約の体系など、共同体のガバナンスに必要な諸機能を整備する計画も明らかになっています。近代国家に代わる存在として、居住地や国籍にとらわれず世界中の人々が多様な選択肢の中から自ら共同体を形成したり選択できるようになる世界もありうるかもしれません。 このようにBitnationの掲げるビジョンは、国家の役割を代替しうるものであり、ある意味では国家という存在に真っ向から対立するようにも思えます。しかし一方で、エストニアがBitnationとの提携を進めています。詳しく見ていきましょう。   なぜエストニアなのか? – 電子立国「e-エストニア」 エストニアは北欧にある、総人口130万人程度(沖縄県と同程度)の小国です。1991年のソ連崩壊に伴って独立を果たしたのち、様々なIT技術を活用して電子立国の取り組みを進めています。エストニアの取り組みは「e-エストニア(e-Estonia)」と呼ばれ、教育、司法、警察、閣議など行政の電子化に加え、2002年に導入されたデジタルIDカードが「e-エストニア」の大きな柱となっています。 エストニアでは一人一人に割り振られた国民IDに従って、様々な個人情報が自動的に紐づけられて管理されています。エストニア国民はデジタルIDカードを用いることで自らの個人情報にアクセスし、様々なサービスを受けることができます。例えば、納税から土地登記、教育、医療、選挙、法人登記、電子署名、公共交通機関の運賃支払いに至るまで、実に幅広いサービスをオンラインかつペーパーレスで実施することができるのです。 これにより国民・政府の双方において手間やコストが大幅に削減され利便性の向上が実現されていますが、個人情報を電子化し政府が一括管理することにはプライバシーの問題が懸念されます。これに対しエストニアでは個人情報保護法に基づき、国民が自らの個人情報へのアクセスログを確認し、またデータ保護庁にアクセス理由を問い合わせることができるようになっています。このように「自分の情報を自分自身でコントロールできる」という仕組みを構築することで個々人のプライバシーにも配慮されています。 現在、エストニアにおける多くの電子サービスはX-Roadというクラウドサービス上に構築されています。しかしクラウドサービスでの個人情報の管理にかかるセキュリティコストや、アクセスログの確認など個人情報の自己コントロールなどの観点から、記録の改ざんが困難なブロックチェーンの活用は非常に適していると言えるでしょう。   […]