ブロックチェーンは国家を超越するか – Bitnationとエストニアから見る未来国家

中央集権機関による管理を必要としないブロックチェーンには、実に様々な活用可能性があります。ビットコインにおいて通貨発行を担う中央銀行が存在しないのと同じように、政府という最も巨大な中央集権機関をも必要とせず自律分散的に動くのがブロックチェーンの最たる特徴です。

今回の記事では「ブロックチェーンと国家」というテーマで、自律分散的な国家を目指すビットネーション(Bitnation)というプロジェクトと、2000年代から急速に行政サービスの電子化が進んでいるエストニアの事例を合わせてご紹介します。

 

信頼性を担保する役割としての国家

さまざまな文書の記録やその内容の証明を行うときには、信頼性をどのように担保するかが問題となります。従来は第三者が仲介することで記録の信頼性を担保する必要がありました。しかしながら、改ざんが困難なブロックチェーン上に記録しそれらを参照することで、記録の存在や内容を証明すること(Proof of Existance、プルーフ・オブ・イグジスタンス)ができます。「ブロックチェーンに記録されている」という事実そのものが、信頼性の根拠となりうるのです。

ではこれによって具体的には何が実現できるのでしょうか。第三者が仲介することで信頼性を担保していたものは実に多くありますが、その最たるものに行政による公的認証サービスがあります。例えば、土地の登記や戸籍謄本など、国民や国家に関する実に多くの情報が行政サービスを通じて集中的に管理されています。この膨大個人情報の管理には大きなコストがかかっています。これをブロックチェーンによって効率化することを目指すプロジェクトが存在します。「Bitnation」というプロジェクトです。

 

Bitnation(ビットネーション)とは? – 公証サービスの自動化

ビットネーション(Bitnation)は、イーサリアムを利用し国家の手を介すことなく様々な認証を自動的に行うプラットフォームを提供するプロジェクトです。いわゆる公的認証サービスとして従来国家が担ってきたものをスマートコントラクトを活用し自動化することで、管理にかかるコストや手間を大幅に削減できます。具体的には土地登記、婚姻届、出生届、死亡届、パスポートなどのID、戸籍登録、財産権の記録などがあります。

Bitnationはインターネットの普及や、輸送にかかる時間短縮やコスト低下などに伴うグローバリゼーションが進行する一方で、国家や国籍が領土と密接に結びついていることを地理的制約であるとして問題視しています。Bitnationは従来政府が担ってきた認証サービスを代替することで、最終的にブロックチェーン上に地理的な制約にとらわれることのない自律分散的な国家を構築することを目指しています。

BitnationによるID発行と行政サービス提供は既に実現しており、国民として登録されていない難民をブロックチェーン上に登録するなどの取り組みも行われています。またネットワーク上に構築された共同体として、投票機能や、スマートコントラクトを利用した民事契約の体系など、共同体のガバナンスに必要な諸機能を整備する計画も明らかになっています。近代国家に代わる存在として、居住地や国籍にとらわれず世界中の人々が多様な選択肢の中から自ら共同体を形成したり選択できるようになる世界もありうるかもしれません。

このようにBitnationの掲げるビジョンは、国家の役割を代替しうるものであり、ある意味では国家という存在に真っ向から対立するようにも思えます。しかし一方で、エストニアがBitnationとの提携を進めています。詳しく見ていきましょう。

 

なぜエストニアなのか? – 電子立国「e-エストニア」

エストニアは北欧にある、総人口130万人程度(沖縄県と同程度)の小国です。1991年のソ連崩壊に伴って独立を果たしたのち、様々なIT技術を活用して電子立国の取り組みを進めています。エストニアの取り組みは「e-エストニア(e-Estonia)」と呼ばれ、教育、司法、警察、閣議など行政の電子化に加え、2002年に導入されたデジタルIDカードが「e-エストニア」の大きな柱となっています。

エストニアでは一人一人に割り振られた国民IDに従って、様々な個人情報が自動的に紐づけられて管理されています。エストニア国民はデジタルIDカードを用いることで自らの個人情報にアクセスし、様々なサービスを受けることができます。例えば、納税から土地登記、教育、医療、選挙、法人登記、電子署名、公共交通機関の運賃支払いに至るまで、実に幅広いサービスをオンラインかつペーパーレスで実施することができるのです。

エストニアのデジタルIDカード”e-Resident ID card”。この一枚で実に多くのサービスを受けられる。

これにより国民・政府の双方において手間やコストが大幅に削減され利便性の向上が実現されていますが、個人情報を電子化し政府が一括管理することにはプライバシーの問題が懸念されます。これに対しエストニアでは個人情報保護法に基づき、国民が自らの個人情報へのアクセスログを確認し、またデータ保護庁にアクセス理由を問い合わせることができるようになっています。このように「自分の情報を自分自身でコントロールできる」という仕組みを構築することで個々人のプライバシーにも配慮されています。

現在、エストニアにおける多くの電子サービスはX-Roadというクラウドサービス上に構築されています。しかしクラウドサービスでの個人情報の管理にかかるセキュリティコストや、アクセスログの確認など個人情報の自己コントロールなどの観点から、記録の改ざんが困難なブロックチェーンの活用は非常に適していると言えるでしょう。

 

e-エストニアとBitnationの提携から見る、未来の国家像

2014年には、エストニアで「e-レジデンシー(電子居住、e-Residency)」というサービスが開始されました。これは非エストニア居住者にもエストニアのデジタルIDを発行し、国民以外にもオンラインで一部の行政サービスを提供する取り組みです。これによりデジタルIDを活用した本人認証や会社登記を海外からオンラインで実行できるようになります。そして、2015年には先ほどのBitnationと提携を開始し、e-レジデンシーがブロックチェーン上で運用されるようになり、公証サービスとしてさらなるコスト削減を実現しました。

エストニアの狙いとしてはスタートアップや起業家の呼び込みがありますが、これが意味するのは単なる経済政策にとどまらない、エストニアの描く未来の国家のあり方であると言えます。e-レジデンシーが実現した従来の国籍にとらわれない形での行政サービス提供によって、数多くのサービスをエストニアに居住していない”電子居住者”に提供しています。Bitnationが目指す「地理的制約にとらわれない自律分散的な国家」という将来像は、実はエストニアの未来の国家像にも当てはまるものなのです。

このようにエストニアが物理的な「領土」から「人」や「データ」へとその重心を移しつつある背景には、「国にとって必要なのは領土ではなく人である」という考えがあると言えるでしょう。将来的には、領土がなくなってもブロックチェーンを通じて世界各地から分散的に行政サービスを実行し、自治を続けながら国家が存続していくという形も十分に考えられうるものです。

Bitnationとエストニアの目指す「領土にとらわれない自律分散的な国家」という共通の将来像は、民主主義とグローバリゼーションの究極の結果とも言えるのではないでしょうか。

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久保田 紘行
About 久保田 紘行 2 Articles
東京大学に在学中。経済モデルの研究から、ビットコインの仕組みに興味を持ったことがきっかけで、ブロックチェーンに興味を持つ。