ブロックチェーンは音楽著作権管理のあり方を変えるか?

データの改ざんが難しく、誰もが参照可能なブロックチェーンには、実に様々な活用可能性を見出すことができます。その一つが「著作権管理」の分野です。特に音楽著作権は、作詞家、作曲家などの著作者にはじまり、歌手、演奏家などの実演家、レコード製作者、放送事業者など多くの関係者が関わるためより複雑です。そのため、著作権の管理にコストがかかったり、実際に誰が権利を持っているのかが不明確になるといったことも生じています。

直近では、音楽ストリーミングサービス大手のSpotifyはブロックチェーンスタートアップの「Mediachain Labs」を買収し、Spotifyの提供する楽曲とその著作権者をブロックチェーン上で紐付けるための技術開発を進めると発表しました。そこで今回の記事では、ブロックチェーンの活用が音楽著作権の在り方をどのように変える可能性があるのかについて見ていきたいと思います。

 

楽曲の著作権管理プロセス-使用料徴収と分配

楽曲の著作権は登録などの手続きを必要とせず、著作物を創作した時点で自動的に発生します。著作権法によって著作権侵害は親告罪であると定められているため、著作権侵害行為があった際には、著作権者自身で対処していく必要があります。著作権者は著作物の利用条件を明記した上で、利用条件に沿って「楽曲使用料」を徴収します。

さらに、徴収した楽曲使用料は著作権者だけでなくステークホルダーへの分配を行わなければなりません。特に音楽制作におけるステークホルダーは、前述の通り非常に多岐に渡るため、楽曲使用料の分配は非常に複雑です。

このように各楽曲の著作権を管理する際には、「再生や演奏に際して発生する楽曲使用料の徴収」と、「徴収した楽曲使用料の著作権者やステークホルダーへの分配」という二つのプロセスが存在しています。

 

著作権管理団体への委託が一般的、しかし課題も

著作権者が自らの楽曲の再生回数をすべてカウントして楽曲使用料を徴収することや、すべての著作権侵害を指摘するのは現実的に考えて非常に困難でしょう。そこで日本では著作権等管理事業法に基づく非営利著作権管理団体であるJASRACが日本のほぼ全ての楽曲の著作権管理を委託されており、楽曲使用料の徴収と分配を担っています。

しかし、JASRACが単独で300万曲以上の楽曲の著作権を管理し、楽曲全ての再生回数のカウントや、YouTube等への違法アップロードの発見、そして徴収した楽曲使用料の公正な分配には、非常に膨大なコストや手間がかかっています。

またJASRACそのもののあり方を問題視する声もあります。JASRACの楽曲管理における手数料が高額であることに加え、徴収した楽曲使用料が公正に分配されているかが不透明であることなどから、利権と化しているのではないかといった疑惑が取り沙汰されることもあります。また昨今ではJASRACが音楽教室のレッスンにおいて楽曲使用料を徴収する方針を決定し、それに対し歌手の宇多田ヒカルさんがTwitter上で反発を表明するなど、本来の著作権者であるアーティストの意向に沿わない形での楽曲使用料徴収が行われているケースもでてきています。

このように、音楽の楽曲使用料徴収には大きなコストと手間がかかります。さらに、日本では現状透明性が担保されていないためにJASRACの仲介に不信感が募ってしまっている状況です。

 

ブロックチェーンに基づく分散型著作権データベースの構築

ではこの楽曲に関する著作権管理は、ブロックチェーンを活用することでどのように変わるのでしょうか。このとき著作権者は、レコーディングされた楽曲データや楽曲の歌詞・譜面などを含む著作権情報を、自らの手でブロックチェーンに記録します。ブロックチェーン上の記録は改ざんが困難であるほか、記録されたデータは誰もが参照できます。すべての著作権情報をブロックチェーンに記録することで、巨大な「分散型著作権データベース」を構築するのです

さらにスマートコントラクトを活用することで、楽曲の購入代金や再生回数のカウントに基づく楽曲使用料の徴収から、著作権者やステークホルダーへの収益配分まで、全てをプログラムに従い自動的に実行できるようになります。これによってJASRACなどの著作権管理団体が不要になるばかりでなく著作権管理という作業そのものが自動化されるため、仲介手数料の削減や効率化が大幅に進みます。また収益配分についてもあらかじめ締結された契約に基づくスマートコントラクトによって自動的に実行されるため、ステークホルダー間での収益配分についてより高い透明性・公平性が確保されます

 

アーティストが自分で自らの楽曲を管理できる未来へ

これらのビジョンを実現しようとしているプロジェクトの一つが、冒頭で紹介したSpotifyとMediachain Labsの取り組みです。このほかにも「Ujo Music」や「Dot BC」といったプロジェクトで同じような取り組みが進められています。

従来非常にコストも手間もかかっていた著作権管理ですが、ブロックチェーンとスマートコントラクトの活用によって、アーティストは自らの楽曲を自分の手で管理することができるようになったと言えるでしょう。つまり、アーティストは自らの楽曲の著作権情報を自分でブロックチェーン上に記録し、自動化された楽曲使用料徴収とその分配を通じて、著作権管理ははるかに効率的に実行できるようになるのです。それだけでなく、著作権管理団体という仲介組織を排すことで、透明性や公平性の確保にもつながっています。

このようにブロックチェーンは音楽業界における実に多くの問題点を一挙に解決する可能性をも秘めているのです。これらのプロジェクトを通じ、アーティストとリスナーの双方にとって良い音楽流通の仕組みが実現されるかもしれません。

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久保田 紘行
About 久保田 紘行 2 Articles
東京大学に在学中。経済モデルの研究から、ビットコインの仕組みに興味を持ったことがきっかけで、ブロックチェーンに興味を持つ。