インターネットの発展からブロックチェーンの普及・発展を考える

ブロックチェーンは、インターネット以後の社会に大革命を起こす技術と言われています。現在(2017年1月)は、インターネット普及初期の1995〜96年に相当する状態とも言われており、今後ブロックチェーンは、「信頼」「信用」に関する社会システムを変えていくといった見方が主流のようです。今後10年、20年でブロックチェーンがどのように社会に変革を起こし得るのでしょうか。これを過去20年余りで起こったインターネットの発展の特徴をヒントに考えてみたいと思います。

 

インターネット普及初期

まず現在はブロックチェーンに関して商用インターネット普及初期と似たような状態ということで、インターネット普及初期がどうだったか思い出してみたいと思います。1995年末、Windows95の発売とほぼ同時期にインターネットの普及が始まりました。当時私が勤務していた会社でも各従業員に電子メールアドレスが与えられ、パソコンにはメールソフト「Eudora」とブラウザソフト「Netscape Navigator」が導入されました。インターネットでできることと言えば、まず「電子メール」と「ホームページ閲覧」でした。

企業は自社の情報を掲載したホームページを作り始めましたが、テキストと簡単なイラストが中心で、現在のものと比べるととてもシンプルだっと思います。上場企業のホームページでも素人が作ったようなページもありました。問い合わせフォームなど充実していなかったため、多くの人は新聞やテレビのような一方通行の広告媒体と捉えていたのではないでしょうか。

会社では各従業員に電子メールアドレスが与えられましたが、通常の連絡手段として電子メールを使うことが習慣化するのは何年もかかりました。電子メールがあっても、簡単な連絡事項をワープロし、コピーしてメール便で送るような非効率な連絡方法は続きました。世の中に追従する形で利用を始めた人たちにとっては、インターネットは信頼できるか分からない通信手段に過ぎなかったのでしょう。

1995年当時は、大量の書類はクラウドで共有し、映画や音楽はネットで配信されたものを楽しみ、SNSで近況を報告しあうなど考えもつかなかったでしょう。しかし、それから現在までの間にインターネットは信頼できる情報基盤として社会の中に入り込み、インターネットを使った産業が発展しました。インターネットやインターネットを使ったサービスが現在まで発展するに至ったいくつかの側面を取り上げ、ブロックチェーンが今後どのように発展・普及し得るかを考えてみます。

1.  用途・アプリケーションとハードウェア・基本技術は影響しあいながら共に進化する

初期のインターネットの通信速度は遅く、ブロードバンドが普及する2001〜2002年頃までは家庭では電話回線を使ったものが主流でした。動画はおろか、ディスプレイ一杯に静止画を表示されるのでも数十秒かかり、非常にじれったい思いをしたことを記憶しています。その後ブロードバンドの普及とともに大量データ送信が可能になり、大容量ファイルをインターネット経由で送信できるようになったり、動画共有など新しい用途が生まれたりしました。

高速インターネットに対する切実な需要がADSLや無線LANのような通信技術の開発やインフラの整備を促し、そして進化したインフラが新しい用途やサービスの創出を可能にしたという好循環が働いていたと言えるでしょう。

これに相当するブロックチェーンで起こり得る変化とはどのようなものでしょうか。現状考えられるブロックチェーン技術の制約の一つは、取引が増えるに従いより大きい処理能力が必要になり、拡張性に制限があると考えられていることのようです。実際、2017年1月に中国ではビットコイン取引量増大時に決済所要時間の増大や取引所の一時停止が起こっており、これは通貨の信頼性に関わる重要な問題かと見受けられます。

処理能力の問題が解決され、ブロックチェーンの拡張性に制限がなくなれば、さらなるアプリケーションの進化につながるかもしれません。暗号通貨の取引は安定して行われるためその信頼性は増すでしょうし、世界中の何億の人が参加する巨大なブロックチェーンのアプリケーションが可能になるかもしれません。

 

2.  キラーアプリケーションはリーンスタートアップ方式から生まれる可能性が高い

写真共有アプリのInstagramの原型はBurbnという位置情報と写真共有を組み合わせたアプリだったと言われています。このアプリは人気を博すことはありませんでしたが、開発者がアプリの写真共有機能がよく使われていたことに注目し、写真共有アプリへ特化するように軌道修正したのが現在のInstagramだということです。

この方法論は「リーンスタートアップ」と呼ばれ、シリコンバレーの起業家Eric Ries氏が2011年に同名の本を出版しています。初期仮説は必ずしも正しくないという前提で、最小機能を持ったプロトタイプを素早く製作・展開・試験し、仮説検証・軌道修正(「ピボット」)を繰り返していくというものです。これは初期仮説に基いてユーザーからのフィードバックなしにいきなり完成度の高い製品を作ろうとする、従来の方法と対比されます。

上述のInstagram以外にもFacebookやPaypalなど現在普及している多くのソフトウェアやサービスはもともと別の用途や機能でしたが、リーンスタートアップ方式で軌道修正し、普及したと言われています。

ブロックチェーン技術をどの分野に適用するのが最も有用で、その使い方とはどういうものであるかを現時点で正確に知るのは難しいことです。そうであればなおさら、ブロックチェーンの有用な使い方を見つけるには、リーンスタートアップ方式で実施可能性や有用性の仮説を一つ一つ検証していくしかないことに変わりはないのではないでしょうか。

まず、「速度などの自動車運転情報や違反の履歴をブロックチェーン化し、リスクに応じた自動車保険の算定や事故予防対策に使えるのではないか」のようなある価値仮説に基いてプロトタイプのサービスを作ります。次に多くのユーザーからのフィードバックを基に仮説を検証し、軌道修正が必要な場合は軌道修正を実施し、このプロセスを繰り返して最終的なサービスを設計します。

最終的なサービスに行き着くまでに何度もプロトタイプによる仮説検証と軌道修正を行っているため、初期仮説一回でサービスを作るよりはるかに成功の可能性は高まるはずだと思います。

 

3.  台頭しているサービスはインターネット普及初期に開発されたものとは限らない

最も使われている検索エンジンを開発したGoogleの創業は1998年であり、Googleが検索エンジンとして台頭したのは2000年以降と、インターネット普及開始から5年が過ぎた頃でした。

Google以前は、ヤフーのように電話帳方式でサイトの登録を要するディレクトリ方式の検索エンジンが存在していましたが、爆発的に増えていくウェブサイト数の増加に対応できず、世界中のウェブサイトを巡回し検索できるロボット型の検索エンジンの優位性が圧倒的に上がりました。そして独自の検索アルゴリズムに磨きをかけたGoogleが主流の検索エンジンとなりました。

全世界で月間アクティブユーザ数が18億人を超えるFacebookが学生向けにサービスを開始したのは2004年、一般向けのリリースは2006年と、インターネット商用普及開始から10年近く経ってからのことでした。Facebook以前にもMySpaceなどのSNSサービスがありすでに顧客ネットワークを築いていましたが、ネットワーク効果が肝心のSNSでさえ、後発サービスが先発サービスを凌駕することができたのです。

これらのインターネットのサービスの事例から考えると、ブロックチェーンでもすでに先発企業が実証試験やサービスの展開を試みていますが、先発企業が永続的に市場を支配するとは限らないと考えるのが自然かと思います。今からでも社会にインパクトを与える用途を開発・展開する機会はあるのではないでしょうか。

実際、暗号通貨の世界ではビットコイン以来何百もの通貨(アルトコイン)が開発され、その中でもイーサリアムはビットコインに次ぐ規模に成長しています。

但し、ネットワーク効果はやはりサービス普及には重要な要素と考えます。先にユーザーのネットワークを獲得したサービスと同一目的・機能の別のサービスが普及するためには、先発サービスより優位性がよほど大きくなければならないでしょう。前述のイーサリアムは、スマートコントラクトを基に機能する分散型アプリケーション構築を可能にしたという大きな特徴があったため、ビットコインに次いで成長したのでしょう。

また、情報のやりとり以外に現物情報のデータベース化やブロックチェーンとの紐付けを行った場合も先行者利益が大きいかもしれません。宝石取引のEverledgerはすでに100万個のダイヤモンドをデータベース化したということですが、宝石取引の分野で相互運用性のない別のブロックチェーンを作るよりも既存のEverledgerを拡充した方がサービスの価値は上がるかもしれません。

以上、インターネットを使ったサービスの発展パターンからブロックチェーンの今後の発展を考えてみました。ブロックチェーン技術そのものやインフラの発展とともにブロックチェーンを使った用途が次々と開発・普及されていくでしょう。

ブロックチェーンは最初は分かりにくく、何にどう使えばよいかなかなか見えてこないかもしれませんが、リーンスタートアップ方式でユーザーへの価値提供を検証したサービスが普及するでしょう。ブロックチェーンの普及期は始まったばかりで、私達自身がブロックチェーン適用のアイデアを出し、サービスを設計して変革の主体になる機会も充分あると考えます。

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大串 康彦
About 大串 康彦 10 Articles
環境・エネルギー分野にてプラントエンジニアとして10年間勤務 。ごみ焼却プラントや燃料電池発電システムの開発等を担当。その後日本の企業を退職し、永住するつもりでカナダに移る。カナダの電力会社に入社しスマートグリッドの事業企画などを担当し、その後は個人事業主としてカナダの技術ベンチャー企業の事業開発支援を行う。2013年に東京に戻る。現在はエネルギー分野でのブロックチェーンを活用した新規事業の機会探索を行っている。記事のフィードバック、ご質問などはyasuhiko.ogushi@gmail.comまでお送りください。