ブロックチェーンで分散型Uberは実現するか?

ブロックチェーンを使ったSUberとは

ブロックチェーンは金融分野以外にも広く応用が提案されていますが、多くが概念実証段階であり、ブロックチェーンの真価が発揮されるのを見るまでにはまだ時間がかかりそうです。「シェアリングエコノミー」も本人確認、信頼性の担保、取引の正真性の確保など信用に依存する部分があり、ブロックチェーンが貢献することが期待されています。未来の可能性としては、例えば次のようなシナリオが考えられます。

車を所有するのは過去のこととなり、ほとんどの人はライドシェアを利用している。たとえばシカゴでメリッサという女性がSUber(ブロックチェーンを使った「スーパー・ウーバー」)で車をリクエストしたとしよう。近くにいる自動運転車が条件をオファーし、メリッサのノードはあらかじめ登録した条件にもとづいて望ましいオファーをメリッサに見せる。メリッサは到着時間などの情報を考慮しながら、希望する条件を選ぶことができる。

自動運転車はスマートコントラクトで自動的に動き、自分の判断でメリッサにサービスを提供する。もっとも効率的なルートを探し、責任持って目的地まで送り届ける。無事に目的地に着いたら、スマートコントラクトで自動的に精算が完了する。自動運転車は手に入れたお金の一部を使って、必要であれば自分を清掃したりメンテナンスしたりする。

ドン・タプスコット+アレックス・タプスコット 「ブロックチェーンレボリューション」P184から引用

以上は中央集権型で巨大な手数料ビジネスとなっているUberに代わりブロックチェーンを使った分散型のSUberというサービスが普及したというシナリオの一部です。本記事では、このようなシナリオに向かって動き出したスタートアップの事例La’zoozArcade Cityを紹介します。

La’zooz

 

La’zoozはイスラエルで2013年に設立した「コミュニティが所有する分散型交通プラットフォーム」です。zoozというトークンを発行し、最終的には分散型の経済圏の生成を目標としているようですが、最初のサービスとしてリアルタイムライドシェアリングの提供を目指しているようです。(リアルタイムライドシェアリングというのは事前に相乗りを予約するのではなく、「今すぐ乗る」ことを前提に運転手と利用者をマッチングさせるサービスです。Uberもリアルタイムライドシェアリングのサービスです。)

La’zoozはすでに走っている車の空席を埋め、稼働する車の台数を減らすことで車や道路への投資を減らし、交通問題を緩和するという大きな目標を掲げています。ドライバーとして稼ぐことを推奨・宣伝しているUberとの大きな違いの一つです。

Zoozトークンはトークンセールで購入する、開発に参加する、スマートフォンのGPSによる移動情報を提供する(「proof of movement」)ことのいずれかにより入手可能です。サービスの支払いにはzoozを使います。「collaboration(協力)」がキーワードになっており、運転手・プログラマー・デザイナーがその貢献度に応じてzoozトークンが支払われる仕組みになっているようです。このへんはUberより民主的に見えます。

ユーザーインターフェイスはAndroidのアプリを使っています。ブロックチェーンをどう使っているかは情報がありませんが、乗車記録、評判、支払い記録などをブロックチェーンに記録し、到着確認や評判の投稿などある条件でスマートコントラクトによる自動的に支払いが行われ、zoozが分配されることが考えられます。

肝心のサービスですが、La’zoozのウェブサイト中のCommunity Members Mapによると2017年4月現在、サービスが提供されている形跡がありません。リアルタイムライドシェアリングは普及戦略が重要で、ある地域内に一定の運転手と利用者の密度(「クリティカル・マス」といいます)が確保できないとマッチングが成立せず、サービスの提供ができません。まだクリティカル・マスに達した地域がない模様です。

La’zoozの場合、ある地域でクリティカル・マスに達するまでは「ゲームモード」になり、登録者(サービス利用希望者)がサービス利用希望者を増やすごとにzoozトークンが付与されるというインセンティブがあります。そしてクリティカル・マスに到達した後、サービスが開始される設計になっています。

残念ながらサービスが提供された形跡を確認できないため、La’zoozはまだ概念段階と評価せざるを得ません。

 

Arcade City

Arcade Cityは搾取的な待遇に不満を持った元Uberの運転手が開始したライドシェアリングのプラットフォームで、分散型のUberのようなサービスを目指しています。ユーザーインターフェイスとしてiOSとAndroidのアプリが2017年3月にリリースされました。筆者が試したところダウンロードおよび登録は可能でしたが、おそらく東京でサービスが提供されていないこともありサービスを使うことはできませんでした。

Facebookページにはサービスを提供した・利用したというコメントはなく、アプリの機能不全に関するコメントが多数投稿されていました。また、同ページやインターネット上にはArcade CityがICOによる資金調達を装った詐欺でないかという憶測のコメントも多数あり、実態は分からぬままです。

残念ながらArcade Cityも良くても概念段階と言わざるを得ません。

 

リアルタイムライドシェアリングは難しい

仲介業者による多大な中間搾取なしなどブロックチェーンを使った分散型のUber「SUber」の概念はとてもよいのですが、上記2例を見て分かる通り実際に機能するサービスを設計・運営するのは簡単でないことが分かります。

La’zoozの場合、2015年9月以前にAndroidのアプリをリリースしてから約1年半が経っていますがクリティカル・マスに達した地域がないということは普及戦略がうまくいっていないと推測します。分散型経済プラットフォームの概念はよいのですが、肝心のリアルタイムライドシェアリングサービスがきちんと機能するように実験を含めてサービスの設計をきちんと行う必要があるのではないでしょうか。

リアルタイムライドシェアリングそのものは簡単ではないと考えています(筆者も起業を試みたことがありますが、事業計画を作るだけで前に進めず終わってしまいました)。マッチングを可能にするクリティカル・マスの問題に加え、運転手を確保できる確度が低い場合は利用者はどれくらい待てるのか、予備の交通手段をどうするのか、通勤など重要な用途に使えるのかなど一つ一つ課題を解決していかなければなりません。

この分野ではUberが成功していますが、決してシステムとアプリを作って後は有機的にサービスが発展した訳ではないと推測します。例えばAvego社(その後Carmaに社名変更)が2011年に米国ワシントン州シアトル郊外の特定の有料道路で詳細な実験を行いましたが、このような詳細検討を行っての現在の成功があるのだと思います。

La’zoozもArcade Cityも分散型経済の概念設計にはリソースを費やしたようですが、機能するサービスの設計や実証実験にリソースを費やした形跡が見られません。このへんが、仮想通貨だけでなく実物の取引を伴うブロックチェーンビジネスの難しさだと思います。この2社には肝心のリアルタイムライドシェアリングのサービスを磨いて、分散型Uberとしてサービス提供を開始する日を心待ちにしています。

 

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大串 康彦
About 大串 康彦 10 Articles
環境・エネルギー分野にてプラントエンジニアとして10年間勤務 。ごみ焼却プラントや燃料電池発電システムの開発等を担当。その後日本の企業を退職し、永住するつもりでカナダに移る。カナダの電力会社に入社しスマートグリッドの事業企画などを担当し、その後は個人事業主としてカナダの技術ベンチャー企業の事業開発支援を行う。2013年に東京に戻る。現在はエネルギー分野でのブロックチェーンを活用した新規事業の機会探索を行っている。記事のフィードバック、ご質問などはyasuhiko.ogushi@gmail.comまでお送りください。