大企業にとってのブロックチェーン革命:大企業の存在意義が真正面から問われる

こちらは、ブレークスルーパートナーズ株式会社 赤羽雄二氏の連載コラムです。

連載:「ブロックチェーンがおよぼすビジネスインパクト」
※第1回:ブロックチェーンが産業、企業、個人に与えるインパクト:例外なくすべてが変わる
※第2回:ブロックチェーンが生み出すビジネスチャンス:インターネットを超える大チャンス
※第3回:ブロックチェーンビジネス立ち上げは、早い者勝ち:今すぐ始めないと取り残される
※第4回:ブロックチェーンビジネスを考えるための頭の柔軟性:さらに柔らかい頭を
※第5回:大企業にとってのブロックチェーン革命:大企業の存在意義が真正面から問われる
※第6回:ベンチャーにとってのブロックチェーン革命:このチャンスを活かすか死ぬか
当記事は、その第5回です。

 

中央集権型しかできなかったので、大企業の存在意義があった

これまでのIT技術では、企業活動は、中央で意思決定を行い、中央の顧客データベースを管理し、送金・決済などの諸手続をするのが現実的でした。企業規模が大きいほうが効率がよく、投入資源が大きく、信頼感を担保しやすいため、どんどん巨大化しました。

銀行・証券会社・保険会社も、またFacebookをはじめとするSNSや、Uber、AirBnBなど急成長中の新興シェアリング・エコノミー企業も同じでした。

インターネットにより、一部の企業だけが驚くほど巨大化して数兆~数十兆円の時価総額を謳歌し、中央集権型の高収益事業モデルをひたすら追求することになったわけです。

業界、サービス内容にもよりますが、サービス内容の充実さと信用度の点で大企業には存在意義があり、中小企業やベンチャーでは到底太刀打ちできない決定的な差がつきました。

ブロックチェーンはベンチャーを圧倒的に有利にする

ところが、ブロックチェーンが普及すると、中央集権型で信頼を担保する必要がありません。改ざんの恐れがなくなるので、サービスを提供するのがベンチャーであっても、利用者が安心してサービスを使えるようになるからです。

こうなると、銀行からお金を借りなくても、貸したい人と借りたい人がブロックチェーン上のサービスでつながり、一定の手続き、マッチングを通して自由に貸し借りできるようになります。

不動産売買も売りたい人と買いたい人が直接売買できるので、不動産屋さんを通して、高い手数料を払うこともありません。

人材紹介も、30%もの高い紹介料を払わなくても、雇いたい企業と働きたい人が安心して直接出会うことができるようになります。

アフリカやアジアから欧米に出稼ぎに行った方々が故郷の家族に送金する際に、10~20%以上の手数料を銀行などに取られることもなくなります。

信頼性というメリットが全く必要なくなりますので、今度は大企業のデメリットが大きくクローズアップされます。中央集権型を維持するための膨大な数のスタッフ、部門間の壁、煩雑・過剰な書類手続き、意思決定のおそさなどがすべて大企業の足を引っ張ります。

構造的に、もうベンチャーに勝ちようがなくなるわけです。重厚なよろいかぶとで戦って圧勝していたのに、突然戦いが42.195キロのマラソンになったようなもので、どうしようもありません。

本来は、そういった重厚なよろいかぶとは余計だったわけですが、中央集権型のメリットがあまりにも大きかったので許されていた、しょうがないものとされていた、あるいは気づかれていなかった、というだけのことです。

 

大企業のままでも、抜本的にスピードアップできれば . . .

もちろん、ブロックチェーンのメリット自体は大企業でも活かすことができます。大企業のまま抜本的にスピードアップすることがもしできれば、ですが。

一応考えてみると、いくつかの方法があります。

一番効果的なやり方は、100%子会社を作りベンチャー的に経営させることです。ただ、100%子会社にしても、社長が親会社からの出向などの場合は、ベンチャー的なダイナミックな動きができません。大企業で優秀と考えられる人材と、ベンチャーで成功する人材には大きな差があるからです。そもそも、ベンチャーで成功する人材は、大企業の枠におさまりきらないので、存在していたとしてもとっくに退社しています。

100%子会社を作った後で、スピード感あふれる中堅企業に経営参加してもらい、そちらの経営人材を活用するという方法もあります。ただ、素晴らしい経営人材まで出せる中堅企業は決して多くはありません。

あるいは最初からジョイントベンチャーを作ることも考えられますが、多くの場合、経営権に関して必要以上にもめることになります。

 

こうなると、大企業の経営者が次の2つの条件をどこまで満たす気があるか、満たす力があるかに大いによります。

第一に、ブロックチェーン時代のビジネス構築にどこまでコミットして取り組むかです。ただコミットするだけではなく、既存事業を大々的にリストラしてスリムにする必要があります。会社の経営がまだ破綻していない状況で、将来をにらんでリストラするのは、管理職にしても労組の説得にしても大変に骨が折れることです。これをやりきることができる大企業のサラリーマン経営者はごく少数です。何しろ、自分を選んでくれた先代社長が会長や名誉顧問として、俺の目が黒いうちに余計なことをしてくれるなと見張っているからです。

第二に、自社の意思決定がどのくらい遅いか、競合するトップクラスのベンチャーとどれほどスピード感が違うか、想像できないほど異次元スピードであるかを理解し、社内に特区を作って自分が日々お尻を叩くなど自社としては前代未聞のやり方で立ち上げようとするかによります。

経営者がこういうことを面倒くさい、あるいはそこまで面倒を見ることができないと思っていたり、あるいはそこまでブロックチェーンビジネスを重要だと思っていなかったりすれば、大企業に目はないでしょう。若い事業部長に任せておけば何とかなるのでは、というのも多分違います。若い事業部長には、リストラなど到底できませんし、人事制度を変更して外部のダイナミックな人材を採用し、社内のノイズを押さえつつ、活躍させることが困難です。

 

割り切って本気で変身する大企業のみが生き残る

大企業が大企業のままでブロックチェーンを活かすことは中々むずかしいと思います。ブロックチェーンベースのサービスを提供しても、ベンチャーの低コストと意思決定の速さに全くついていけないからです。

といってただ見ていては、本業が一気に傾いていくことも起きかねません。一度崩れ始めたら、高コスト構造が命取りになり、挽回のしようがなくなります。

そのようなことになる前に冷徹に事業再編を進め、人員削減を進めることができる強烈な経営者が、周囲や前任者の反対を押し切って進めるしかありません。御神輿経営をしてきた、調和型の社長には到底取り組むことができないレベルだと思います。

過去100年、銀行・証券・保険など、中央集権型の最たる企業が大きな成功を収め、巨大化しました。好況・不況はあっても、経営者がしっかりしていれば、不況で何とか持ちこたえ、好況時にはチャンスを活かしてきたわけです。

経営者が凡庸なためにつぶれた企業は多数あります。ただ、ブロックチェーン革命が進むと、経営者がしっかりしていたとしても、泥船のようにくずれていく可能性があります。

割り切って本気で変身する大企業になるか、そんな馬鹿のことは起きないとこのシナリオを無視するかは経営者の判断次第です。

危機意識を持ち、メンツにとらわれず、本気で変身していく必要があります。

 

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赤羽 雄二
About 赤羽 雄二 14 Articles
東京大学工学部を1978年卒、小松製作所を経て、1983年よりスタンフォード大学大学院に留学し、機械工学修士、修士上級課程を修了。1986年、マッキンゼーに入社。1990年より、マッキンゼーソウルオフィスの立ち上げおよびLGグループの世界的な躍進を支えた。2002年、「日本発の世界的ベンチャー」を1社でも多く生み出すことを使命としてブレークスルーパートナーズ株式会社を共同創業。著書に『ゼロ秒思考』『速さは全てを解決する』『ゼロ秒思考[行動編] 即断即決、即実行のためのトレーニング』(ダイヤモンド社)などがある。