エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(2)

Global Summit on Blockchain Technology in the Energy Sectorの会議が行われたウィーンのホーフブルグ宮殿

前回に引き続き2月14日15日にウィーンで行われた「Global Summit on Blockchain Technology in the Energy Sector」の会議に関して書いていきます。1日目にイーサリアム財団のヴィタリック・ブテリンが登壇し、分散化(decentralization)についての議論を展開しました。その一部をご紹介します。

そもそもブロックチェーンはエネルギー分野に役立つのか?

まず、分散化という広い概念をよりよく理解するために分散化する対象としての次の3つの側面から整理を試みました。

  • アーキテクチャーの分散(物理的システムの分散)
  • 政治の分散(ブテリンは「政治」というややスケールの大きい単語を使いましたが、コントロールする主体と考えればよいかと思います)
  • 論理の分散(インターフェイスやデータ構造)

その上で、分散システムのメリットとして、次の4つを挙げました。

  • 故障に対する耐性(中央集中システムの故障の例として2003年の米国・カナダの大停電)
  • 攻撃に対する耐性(中央集中システムが攻撃された例としてアシュレイ・マディソンという不倫出会い系サイトのデータベースがハックされ、個人情報が漏洩した)
  • 談合や独裁体制を形成することに対する耐性(独裁体制の例として、APIが更新されてツイッターのサードパーティー製アプリケーションの使用が制限された)
  • 効率性の向上

ブテリンはエネルギー分野での応用については特に議論せず、分散システム一般の議論に終始していました。そして最後に、エネルギー分野で分散化が意味のあるものであれば、ブロックチェーンは役に立つと結論付けました。ブテリンが示した枠組みは「そもそもブロックチェーンはエネルギー分野で使えるのか」という問いを考えるのに有効かもしれません。現在の電力システムに当てはめて考えてみましょう。

電力システムについての分散化の対象となる3つの側面は簡単に書くと以下のようになっています。

 

1.アーキテクチャーの分散

中央の大型発電所から送配電網を通って末端の需要家に電気を届ける方式が主流であり、大部分です。この中央集権型の構造を大きく変えるには至っていませんが、分散型の発電設備も近年増加しています。

家庭や小規模事業所の太陽光発電施設(50キロワット未満)は2016年10月時点で約250万件あり(経済産業省)、年々増加しています。この他、家庭用コージェネレーション「エネファーム」が約20万台(コージェネ財団)、工場や事業所用のコージェネレーションシステムや自家発電設備もあります。

太陽光発電が250万件というのは大きな数字ですが、発電容量では日本全国の発電容量の7%程度です。(電気事業連合会の全国発電容量ベース)しかも、太陽光発電が発電できる時間は限られているため、発電量換算では全体の3%程度(環境エネルギー政策研究所)とさらに小さくなります。傾向としては間違いなく発電設備の分散化は進んでいますが、近い将来に中央集権型の構造が大きく覆されることもないと考えるのが現実的です。

 

2.コントロールの分散

現在の電力システムでは私たちが自由に照明や空調のような負荷を調整できるようになっていますが、電気は貯めることができず常に流し続けなければいけないため、需要に合わせて供給を調整するという作業が24時間365日電力会社で行われています。各電力会社には中央給電指令所があり、巨大なパネルやディスプレイで電力系統全体が監視できるようになっており、必要に応じ制御も行っています。

現在のシステムはまさに中央集権型です。上記に書いた需給調整以外にも周波数を一定に維持するなど細かい調整も行われています。太陽光発電や風力発電の変動を中央ではなく発電所で緩和することも一部で行われていますが、現在の中央で行われている機能がすべて短期間に自律分散的に移行するということは現実的ではないと思います。おそらく今後も中央集権型のコントロールは継続するのではないかと考えます。

 

3.論理(データ)の分散

各家庭や事業所には消費した電力を計測する電力量計がありますが、計測された電力使用量データは一般送配電事業者(電力会社)が収集し、課金請求に使用します。2016年4月から電力小売部門が自由化されましたが、一般送配電事業者が計測された電力データを収集することには変わりません。電力会社を切り替えた顧客に対しては一般送配電事業者がその顧客と契約している小売事業者にデータを渡し、小売事業者が顧客に課金請求を行います。

電力使用量データの流れに関しては中央集権型と言えます。前回「ブロックチェーンは中央集中型のシステムを変えられるか」で書きましたが、2016年4月の電力自由化後にこの中央集中型システムで顧客の使用量を確定できないという障害が発生しました。まさに中央集権型システムの弱みが露見したと言えるでしょう。

2016年4月の電力自由化のために各社インフラを更新したために、大きな問題がない限り現在の構造が近い将来変わることはないと考えるのが現実的と考えます。

 

まとめますと、電力システムは中央集権的な側面が多いです。太陽光発電などにより発電設備の分散化が進行している以外はコントロールもデータの流れも中央集権的であり、近い将来この構造が大きく変わる可能性も小さいと考えています。分散化エネルギーシステムという概念は実は新しくなく、何十年前から提唱・推進されてきました。それでも技術・制度・コストなどの制約等の要因で主流にはなれずに今に至ります。

上記は日本のシステムを想定して書きましたが、著しく分散化された大規模な電力システムというのは世界でもおそらくまだありません。(「マイクログリッド」など小規模な自律分散型電力システムというのは実証実験などで聞いたことがあります。)

 

なぜエネルギー分野でブロックチェーンが注目されるのか?

それではなぜ多くの事業者がブロックチェーンにポテンシャルを見出しているのでしょうか。

近年太陽光発電の価格が大幅に下がったこと、蓄電池やその他需要家側でのエネルギー管理という概念が広まったことでアーキテクチャー分散化の流れができました。廉価で入手しやすくなった技術や新しいビジネスの機会が分散化の推進力になっていると言えます。エネルギーシステムが分散化すればブロックチェーンの有用性が発揮できるという前提で、このトレンドを理解した事業者がいち早くブロックチェーンの有用性を実証したくて活動しているということになるかと考えます。

現在、実証実験を開始した事業者はまだ数えるくらいですが、今後1年の間に実証実験を予定している事業者は多くあり、ブロックチェーン応用のメリットや成果は徐々に見えてくるでしょう。コントロールの分散やデータの分散が充分に起こっていない電力システムでブロックチェーンがどう使えるか、またはブロックチェーンがエネルギーシステムを変えていく力となり得るかは今後分かってくるでしょう。
分散化というキーワードはブロックチェーンの応用を考える際の一つの側面であり、他の側面から考えるとブロックチェーンを使うメリットがもっと見えてくるかもしれません。これを踏まえ、次回はエネルギー分野のユースケースを議論していきます。

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大串 康彦
About 大串 康彦 10 Articles
環境・エネルギー分野にてプラントエンジニアとして10年間勤務 。ごみ焼却プラントや燃料電池発電システムの開発等を担当。その後日本の企業を退職し、永住するつもりでカナダに移る。カナダの電力会社に入社しスマートグリッドの事業企画などを担当し、その後は個人事業主としてカナダの技術ベンチャー企業の事業開発支援を行う。2013年に東京に戻る。現在はエネルギー分野でのブロックチェーンを活用した新規事業の機会探索を行っている。記事のフィードバック、ご質問などはyasuhiko.ogushi@gmail.comまでお送りください。