エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(3)

KEY2ENERGYのデモ(筆者撮影)
※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。

前回前前回に引き続き2月14日〜15日にウィーンで行われた「Global Summit on Blockchain Technology in the Energy Sector」の会議に関して書いていきます。前回は、分散化という切り口からブロックチェーンのエネルギー分野への適用性を考えてみました。今回はより具体的に、現在行われているまたは計画中のプロジェクトの紹介を含め、ユースケースに関して考察していきます。

 

現在考えられるブロックチェーン技術のユースケースは100個以上

会議1日目の発表の中で、ブロックチェーン技術のエネルギー分野のユースケースは100個以上が特定されているという調査結果の紹介がありました。100個以上とは、驚きです。この約半数が、計測とデータ伝送・請求・自動化などプロセスに関するユースケース、残りの半数が電力取引などプラットフォームとしてのユースケースであるということでした。

あくまでこれらは現時点で考えられる可能性と認識しますが、実際に走っているプロジェクトはどのようなものがあるのでしょうか。会議2日目に多くの時間を割いて行われたスタートアップ企業の発表から、注目すべきなものをいくつか紹介したいと思います。

 

エネルギー×ブロックチェーン事例紹介

Power Ledger (オーストラリア)

EcoChainという独自の許可制(Permissioned)ブロックチェーンを使い、電力P2P取引を試みているようです。電力会社と合意を締結し、10000個以上のスマートメータを用いた実証試験を今年行う予定。電力会社のシステムと共存するようなシステムを目指すようです。

LO3 Energy(米国)

ニューヨークのブルックリンで太陽光発電設備を持つ家庭が同地域内で電力を取引できる実証実験を昨年からすでに開始しています。すでに実証実験を開始している点ではパイオニア的存在かもしれません。ニューヨーク大停電の写真とともに、太陽光発電を使った地域での電力融通が電源の信頼性を向上させるというメリットが紹介されました。

BTL(カナダ・英国)

すでにトロント証券取引所ベンチャー市場に上場している企業で「interbit」というブロックチェーンのプラットフォームを展開しています。このプラットフォームを使って今年欧州と米国で実証実験を行うとの発表がありました。(会議終了後、オーストリアのWien Energieとの協業の発表がありました。)また、クレジットカード会社のVisaと協業するなど、エネルギーだけでなく金融分野にも力を入れているようです。

Freeelio(ドイツ)

太陽光発電など家庭のエネルギーマネジメント分野のアプリケーション「Adpteve」を開発中です。太陽光で発電した電力を「ソーラーコイン」に、需要をシフトさせた電力を「グリーンコイン」に変換して取引を行うようです。まず家庭のエネルギーの最適化から入り、将来は電力系統や工場などのマネジメントも手がけたいとのことでした。

SolarChange

太陽光発電で発電した電力1kWhを1SolarCoin(上記Freeelioのソーラーコインとは別物)に変換し、取引を可能にするプラットフォームを提供します。目的は太陽光発電にインセンティブを与え、太陽光発電のさらなる普及を目指すことです。SolarCoinは法定通貨やビットコインと交換可能にして太陽光発電関連のエコシステムを広げる狙いです。

Bankymoon

ビットコインのシステムを使い、ビットコインでプリペイド電力メータ(途上国を中心に普及している)にチャージしたり、発電した電気を世界中のどこでも送れるシステムを開発しています。新規のブロックチェーンではなくあくまでビットコイン上のアプリケーションということでした。

 

また、これ以外にもNRGcoinという太陽光発電由来の暗号通貨(仮想通貨)の発表がありました。太陽光発電と暗号通貨の組み合わせというのは電力P2P取引と並んで人気のユースケースのようでした。

会議場でデモの展示をしていたのはKEY2ENERGY(オーストリア)とEnphase(米国)で、前者は複数のユニットがあるアパートに太陽光を設置したときの課金をブロックチェーンを使って行うシステム、後者は需給状況によって15分ごとに電気料金が変動するダイナミックプライシングのシステムで太陽光発電なども含め最適化を行うシステムのデモでした。

KEY2ENERGYのデモ(筆者撮影)

 

従来の制度や規制の壁をどうしていくか?

記事「ブロックチェーンは中央集中型の電力システムを変えられるか」で触れましたが、電力は規制産業であり、制度上取引に制限があります。現状の制度では、太陽光発電で発電した電力を販売できるのは限られた電力会社であり、個人間取引はできません。また、電力会社のインフラを使用して取引を行うためには託送料金がかかり、託送料金は電力コストの中でも大きな割合を占めます(家庭用電力料金26~29円/kWh、低圧託送料金8-9円/kWh)。

2017年4月より一般送配電事業者に一本化の予定。それ以前は小売電気事業者を指定できる。

上記の規制は電力システムの安全や信頼性を維持するために必要な措置であり、世界中どこでも似たような制度となっています。それでは、ブロックチェーンの実証実験の実施のためにはどうやってこの制度の壁を超えればよいでしょうか。

ユースケースが、電力システムの外で完結するユースケースであれば問題ないでしょう。しかし、多くのユースケースは電力システムや規制を避けて通るのは難しいと見えます。上記で紹介した電力P2P取引はもちろん現状の制度では認められていない個人間取引ですが、ソーラーコインのケースでも需要家が発電した電力をまず事業者が電力会社に買い取ってもらい、その売上を原資にソーラーコインを発行することが想定され、電力会社との関わりが発生します。

スタートアップ企業など電力会社以外の事業者が事業を行う場合、電力会社や場合によっては規制当局と協業体制を組み、見方につけて実証実験を行うのが王道のようです。上記で紹介したLO3 Energyの場合もニューヨークの電力会社ConEdisonと協力のもと実証実験を進めていますし、Power LedgerやBTLも同様のアプローチを取っています。

電力会社と協業体制を組むためには、ユースケースをよく練り電力会社にひいては社会にとってのメリットを明確にする必要があるのではないかと考えます。もちろん、いち早く実証実験を実施して経験や知見を蓄えることは重要ですが、早く実証実験を行って先行者利益を得るのが重要な状況の中で、いかに発展性がありブロックチェーンの特徴を活かした役に立つユースケースを作れるかが各事業者の頭の使いどころだと思います。

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大串 康彦
About 大串 康彦 10 Articles
環境・エネルギー分野にてプラントエンジニアとして10年間勤務 。ごみ焼却プラントや燃料電池発電システムの開発等を担当。その後日本の企業を退職し、永住するつもりでカナダに移る。カナダの電力会社に入社しスマートグリッドの事業企画などを担当し、その後は個人事業主としてカナダの技術ベンチャー企業の事業開発支援を行う。2013年に東京に戻る。現在はエネルギー分野でのブロックチェーンを活用した新規事業の機会探索を行っている。記事のフィードバック、ご質問などはyasuhiko.ogushi@gmail.comまでお送りください。