ブロックチェーンが次世代AIの開発を可能にする

ウクライナの複雑系脳科学の専門家であるMaxim Orlovsky博士は、2017年5月20日にウクライナのキエフで行われたブロックチェーンカンファレンスにおいて、ブロックチェーンが最先端のAI(人工知能)開発のトレンドを切り開いている現状について発表しました。

現在、最先端をいくテクノロジー企業の間では、ブロックチェーンとAI開発のふたつの技術がかけ合わさり、ブレイクスルーが起きる可能性に注目が集まっているそうです。実際に、IBMではAI開発に携わっているコグニティブ・コンピューティングの部門と、IoT実現に向けたブロックチェーンを開発しているIoT部門を統合されることが発表されています。

カンファレンス中、Orlovsky博士はAI開発の今後の展望についての見解を示しました。
現在私たちが日常的に用いている、SiriやパーソナルアシスタントにみられるようなAIは、1950~60年代頃のニューラルネットワーク理論を元に組み立てられています。これらのAIは、近年コンピュータの小型化と計算能力の向上が進んだことと、通信技術が発達したことにより、日常的に持ち運ぶデバイス上で使うことができるようになりました。

「シングルエージェント」から「マルチエージェント」へ

Siriのような、私たちが今日日常的に利用することができるAIシステムの多くは、「シングルエージェント」と呼ばれるカテゴリーに分類されます。一方で、現在「マルチエージェント」と呼ばれるAI研究の分野が注目を集めています。エージェントとは、知覚された情報に対して何らかのアウトプットをする存在のことで、人間も一種のエージェントと考えることができます。ここでは、人間に代わって複雑な作業をこなす存在のことをエージェントと呼びます。

「シングルエージェント」とはすなわち、1人のエージェントが問題解決にあたっている状況を指します。シングルエージェントでは、単体で処理しきれる情報量に限界があるため、多大な情報量を扱う複雑な問題の解決を苦手としています。そこで、複数のエージェントを用いることで、より複雑な問題に取り組むことができる「マルチエージェント」システムに期待が集まっています。

マルチエージェントシステムで複雑な問題の効率的な解決方法を模索する場合、各エージェントが全体からみたときに最も適切な合意形成を行い、効率的なアウトプットを目指す必要があります。しかし、通常の場合、エージェントはアウトプットに応じて得られる報酬を最大化するという行動原理に従って活動するため、エージェントが複数になったときに、シングルエージェント下では起きない問題が発生します。例えば、エージェント間に処理できるタスク量に性能差がある場合や、意思決定に競合する部分があって「利害の衝突」が発生している場合、同じインプットに対してそれぞれがバラバラの方向性のアウトプットを返してしまうため、全体としての効率性が落ちてしまいます。このように、マルチエージェントシステムでは、各エージェントによって部分的に最適な意思決定が行われるものの、それが全体的に見た場合に最適ではないことがあるため、効率的な意思決定が達成できない場合があります。

また、ハードウェア面でも課題があります。現状、1台のコンピュータのマシンパワーでは多数のエージェントを同時に処理できない場合があるため、複数のコンピュータに跨ってエージェントを配置することがあります。このとき、問題解決にあたるすべてのエージェントに同じデータを与えて、処理を試行するたびに同じように情報の解釈してもらう必要があるため、既存の人の手でコンピュータにデータを与える作業は管理コスト膨大になってしまうことがあります。

コンセンサスアルゴリズムがAI開発に貢献する可能性

このような問題に対して、ブロックチェーンの活用が期待されています。分散型台帳を用いることによって、各エージェント間で同じ情報を効率的に共有できるデータベースとして活用できるだけでなく、ブロックチェーンの根幹をなす「コンセンサスアルゴリズム」をマルチエージェントシステムに用いることで、エージェントとエージェントの間に「利害の衝突」が発生している場合でも、全体最適のとれた最も効率のよいアウトプットに期待することができます。

Orlovsky博士は、ムーアの法則を例にあげ、ニューラルネットワークモデルが実現して世界に広く普及するまで60年の時間を要したことから、今後マルチエージェントシステムが実用可能なレベルで世界に広く普及するまで、およそ30年ほどかかるのではないかとの見方を示しました。今後のAI開発を飛躍的に推し進める変数として、CPUの計算処理能力の向上(あるいは量子コンピュータの登場)、コーディング方法の進化、マルチエージェントによる意思決定モデルの洗練、インターネットの高速化、人間の脳や意識が生まれる仕組みへの理解の深まりなど、数々の要因が考えられます。ブロックチェーンの登場は、AI開発の歴史に一石を投じることになるかもしれません。今後のAI開発にブロックチェーンがどう関わってくるか、注目です。

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BBC編集部
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