石油産業の構造にブロックチェーンが与えるインパクト

2017年8月30日 BBC編集部 0

  石油産業は、これまでDWC技術(Dividing Wall Column)やペトロリオミクス技術といったような、先進的なテクノロジーを他の業界に先駆けて積極的に取り入れてきました。しかしその一方で、今世紀で最も重要な技術のひとつといわれるブロックチェーンの導入に関しては遅れをとっていると言われています。今回の記事では、ブロックチェーンの導入が、石油産業の構造にどのようなインパクトを与えるかについて注目していきたいと思います。   石油業界の現状と課題 石油に対する世界的な需要は全体的には増加の見込みがある一方で、需要増加分以上に精油所の新設や増設が進み、供給過剰となってしまう可能性もあります。また、需要の増減については地域によって違いがあります。例えば、日本では少子高齢化や自動車の燃費向上によって需要が減少していますが、欧州では域内の製油所の整理が進み、中東などの域外からの輸入需要が増加する動きがあります。アジアでは新興国を中心に需要の伸びが期待されており、豪州では国内需要の伸びに応じて、輸入が増加する見込みです。また環境問題への対策として石油使用の規制が進められ、バイオ燃料への取り組みがさらに強まることも考えられます。 一方、石油の供給面でも構造的に懸念点があります。近年、石油の主要な産出地域である中東地域で政治的不安が広がっています。それを受けて、中東国家の反体制派であるテロ組織などに活動資金が渡らないように、石油の産出元の健全性が求められています。しかし、イスラム国とトルコ国境に不審な石油運送ルートの存在が衛星画像で指摘されるなど、石油への信頼性が大きく揺らぎました。   このように、石油や石油化学産業のサプライチェーンは⑴採掘から精製地、⑵精製地から最終消費者に届けるまでに数多くのプレイヤーを経由するため、非常に大きく複雑な流れになっています。現在の石油業界では、企業間や部署間での取引効率化やセキュリティ向上のため、業界内での合併や戦略的提携の拡大が進められてきました。しかし、これらの課題を低コストで解決できるポテンシャルをもつ、ブロックチェーン技術の活用に業界内で注目が集まっています。 金融や政治の分野で活用されるブロックチェーン 分散型台帳技術とも呼ばれるブロックチェーンは、取引記録の改竄が困難、悪意ある攻撃を受けにくい、容易に取引記録にアクセスでき透明性が高い、などの特徴をもっています。 financeとtechnologyを掛け合わせたフィンテックが進む金融業界では、与信審査やあらゆる業務の効率性を高めるべく、スマートコントラクトや分散型台帳を導入することによってエラー率の減少、取引の高速化、透明性向上に取り組んでいます。ブロックチェーンは他にも、社債取引、送金、詐欺対策、各種の売買取引に活用されており、これらは石油産業においても同様に活用できることが期待されています。世界最大級の産油国であるアラブ首長国連邦(UAE)では、既に行政レベルでブロックチェーンの導入が進んでいます。UAEは“Dubai Blockchain Strategy”を掲げ、2020年までにUAEの全ての政府機関でのブロックチェーン活用を目指しており、今後石油の分野にも進出していくことが期待されます。   石油業界でのブロックチェーン活用の今後の動向 現在の石油産業では、石油生産、精製、運送において、生産者や、供給者、建築業者、下請業者、精製工、小売業者といった幅広い人が関わっています。ここにブロックチェーンを導入することによって分散型台帳を参照することで、各箇所で行われていた膨大な事務処理を大幅に削減することができます。また、ブロックチェーン上で取引が容易に追跡可能になるので、石油取引に透明性を確保することができます。石油産業やガス産業において、取引の透明性向上は、規制管理の面でも非常に重要です。行政機関などの規制を行う主体は、ブロックチェーンの導入によって、取引の規制がきちんと実行できているか管理しやすくなるでしょう。取引コストの削減や、石油のルーツの健全性、取引価格の透明性が求められる石油産業界において、ブロックチェーン導入は1つの大きなキーとなりそうです。   [参考] http://www.ide.go.jp/library/Japanese/Publish/Download/Report/pdf/2007_04_16_05.pdf PwCあらた監査法人、『Industry snapshot: Oil and […]

再生可能エネルギー・未来の電力システムとブロックチェーン

2017年5月2日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 以前に公開しました「ブロックチェーンは中央集中型の電力システムを変えられるか」および「エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(2)」では分散型システムという観点から電力システムにおけるブロックチェーンの活用可能性を議論しました。今回は、市場経済型をキーワードにしてさらに議論を深めてゆきます。   未来の電力システムは市場経済型 日本では2012年の固定価格買取制度開始後急激に太陽光発電が普及しましたが、2016年11月時点の経済産業省のデータを基に計算すると太陽光発電と風力発電を合わせても日本の全発電量の5%以下(太陽光3.6%・風力0.6%)です。一方、国際エネルギー機関(IEA)によると、デンマークでは太陽光発電と風力発電の発電量が全発電量の50%超、アイルランド、ポルトガル、スペイン、ドイツでは20-25%と日本より大幅に高い割合で普及が進んでいます。 国際エネルギー機関の報告書によると、電力系統が大量の再生可能エネルギーを受け入れるための3つの柱の一つとして、電力システムと市場と運用の改善が挙げられています。従来の電力システムは計画経済的であり、過去のデータや気象データから未来の需要を予測し、供給計画を立てるという方法が使われていました。しかし出力が絶えず変動する再生可能エネルギーの発電をうまくとり入れながらシステムを運用するためにはよりリアルタイムに近い市場経済型の運用に移行することの必要性が示唆されています。 上記の欧州各国では電力供給の信頼性を大きく損なうことなしに変動電源である再生可能エネルギー大量普及を達成しており、電力システムの運用も市場経済型に近づく取り組みが見られます。例えばアイルランドでは負荷配分の時間幅を10分未満に短縮し、リアルタイムに近い需給バランスの運用を行っています。また、卸売市場における入札に基づく負荷配分の最終更新は当該時間前30分未満となっており、柔軟性の高い市場取引を確保しています。 日本は2003年に日本卸電力取引所が設立し取引が行われてきましたが、当時の日本は地域独占・垂直統合型の電力システムであり、変動電源の再生可能エネルギーの普及率も低かったため、このようなリアルタイムに近い市場経済型のシステム運用の必要性は強くありませんでした。現在進行中の電力システム改革の最終段階で2020年までに現在の垂直統合型の電力会社から発電と送配電が法的に分離した構造分離型に移行しようとしていますが、この改革の中で市場経済型に近づくことができるのではないかと考えます。   市場経済型取引プラットフォームとしてのブロックチェーン 前置きが長くなりましたが、上述のような変動電源である再生可能エネルギーが多く系統に接続した電力システムの姿を以下の図にまとめます。これを達成するためには電力系統制御や需要管理に関わる電気工学を基にした技術も必要になってきますが、取引のプラットフォームとしてはブロックチェーンが有用と考えます。すなわち、その他のハードウェアや仕組みが整っていればブロックチェーンにより市場経済型のシステムへの移行を加速することができます。 ブロックチェーンが優位性を発揮すると考える理由は以下です。このうち、市場経済型・取引主体の運用に大きく関連する理由は2)と3)です。 分散型エネルギーシステムの物理的アーキテクチャーにより適合している。現状は一般送配電事業者と小売事業者が電力使用量の情報を中央集中的に処理しているが、ブロックチェーンを使えば中間業者を入れずに当事者間で取引が可能。 異なるタイプの市場参加者間(従来の発電、分散型発電、デマンドレスポンス参加者、消費者など)で、中央の権威に頼らず「トラストレス」な信頼を確保した取引が実現可能。 中央の卸売市場だけでなく、地域小売市場などきめ細かい市場取引が可能である。これにより託送料金を一律でなく距離に応じた課金にするなど公正な料金形態も実現しやすい。 信頼性の高い取引により地域主体で地産地消を推進するエネルギーシステムの構築が容易である。例えば自治体や地域の事業者が主体となって電力事業を進めやすい。ある地域をマイクログリッドにしてしまえば電力会社との契約は一つで、その中での取引は自由に可能。 再生可能エネルギーの価値をトークン化、証書化し流通されるのが容易。 経済産業省が2015年に発表した日本の2030年の導入目標は太陽光発電が日本の発電量全体の7%、風力発電が同1.7%と、上記欧州の導入実績値と比較しても控えめな数字になっていますが、太陽光発電はコストが下がり続けていることからこれからも導入は進むと予測されます。今までは「メガソーラー」と呼ばれる大型の太陽光発電所の建設が進みましたが、今後は買取価格が下がるため、大型の発電所よりも住宅や事業所の屋根に設置して発電した電力を自家消費し、余剰分を売電するスタイルが有利になると考えます。多くの分散型電源が接続された電力システムはすでに現実のものであり、今後も推進されるでしょう。 今までブロックチェーンのユースケースを調査し、電力の個人間取引やマイクロペイメントを見てきましたが、これらは始まりであり、長期的には電力の取引部分を担う中核技術として発展する可能性が大きいと感じます。   まとめ 電力システムの大きな流れとして中央集中型・一方向型から分散型・ネットワーク型への移行があります。これは、安価な太陽光発電・蓄電池などの技術の普及により大きく推進され、この流れは不可避だと考えます。また、今年度に創設されたネガワット(節電)取引市場、経済産業省が昨年度から実証事業として行っているバーチャルパワープラント(需要や蓄電池の集約・制御技術を使った技術)など、需要を集約化・能動化することによる電力システムの運用手法も普及し、トップダウンで発電することから送配電ネットワークの運用へ重要性の移行が進んでいます。 一方、出力が絶えず変動する太陽光発電・風力発電の普及は今後も続き、さらに多くの再生可能エネルギーが系統に接続されます。今までの計画経済的な電力システムでは大量の再生可能エネルギーを取り込むことは難しく、市場経済型のシステムを導入し、価格シグナルを利用することにより需給バランス確保をはじめとする電力システムの運用を行う必要があります。 市場経済型システムを言い換えると、取引主体のシステムとも言えます。従来型発電、クリーンな付加価値を持つ再生可能エネルギー発電、需要を削減して需給バランス確保に貢献するデマンドレスポンス、ネットワーク使用量を徴収する送配電事業者など多様なプレイヤーが地域レベルで取引を行うことにより運用される電力システムに移行するということです。 ブロックチェーンはこのような取引の明確化や正真性の確保に貢献し、中間業者なしに当事者間での取引を可能にする取引プラットフォームの核となるテクノロジーになるのではないかと考えます。但し、ブロックチェーンは万能ではなく、再生可能エネルギーの大量導入や需要管理には従来の電気工学を基にした技術の導入も不可欠と考えます。 […]

ブロックチェーンで電気の少額決済(マイクロペイメント)は普及するか?

2017年4月4日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 ブロックチェーンの特徴の一つとして「取引コストが低い」というものがあります。これは、ブロックチェーンにより仲介者なしの直接取引が可能になり、従来手数料を徴収していた仲介者が不要になることに起因するところが大きいです。取引コストが安くなれば少額の送金や現金以外での通貨の支払いにもメリットが出るし、デジタルコンテンツをはじめとする少額決済(マイクロペイメント)も意味があるものになるでしょう。 それでは、電気はどうでしょうか。本記事では電気の少額決済とは果たして意味があるのか、そしてブロックチェーンにより電気の少額決済は普及する可能性があるのかを考察してみることにします。 取引コストが低くなると少額決済のインセンティブが生まれる まず、取引コストが低くなることのメリットやインパクトについて考えてみます。最初のケースとして金融機関の送金手数料を考えます。仮定として、金融機関が徴収する送金手数料は取引コストを反映しているとします。 仮にある金融機関の3万円以下の送金手数料が300円だったとします。3万円送金するときの手数料は300円となり、現状の商習慣からは妥当でしょう。しかし500円送金して300円の手数料を徴収されたのでは、手数料は送金額の60%となり、とても高い印象を与えるかもしれません。結果、利用者は送金を諦めてもっと安い別の方法を探すかもしれません。 仮に、金融機関の取引コストが下がり、送金手数料が送金額の1%になったとします。今度は500円送金するときの手数料は5円です。この額では利用者は喜んで送金を行う可能性が高いでしょう。つまり、取引コストの低下により今まで行われなかった少額の送金が行われるようになります。 同様な原理はクレジットカードの手数料などにも当てはまります。客単価があまり高くない飲食店などで「クレジットカードでの支払いは○○円以上のみ対応します」のようなルールを見ますが、これは店側が払う少額決済のときのクレジットカードの手数料が割高となり、利益を損ねるためと推測します。取引コストの低下により、この問題は解決され、店は少額でもクレジットカードの支払いに対応できるようになるでしょう。 「1記事50円」でも商売が成立 次に、送金ではなくデジタルコンテンツの販売を考えてみます。取引コストが低くなると、今まではまとまった単位でしか売っていなかった記事、音楽、写真などを少額で切り売りして販売することが可能になります。上記の例と同様、少額決済が経済的に意味のあるものとなり、ニーズがあれば販売が推進されると予測します。 この場合は、売り手と買い手の両者にメリットが生じます。買い手は、今まで特定のコンテンツにアクセスするためには、コンテンツのまとまり(音楽のアルバムや書籍一冊)や毎月定額の購読料(サブスクリプション)を購入するしかありませんでした。 しかし、この買い手はコンテンツの一部分にしか興味がなく、それを入手するためにコンテンツのまとまりや購読を購入することは高額で割に合わないと考えていました。欲しかったコンテンツのみを少額で購入できるのですから嬉しいはずです。 売り手は、今までコンテンツの塊やサブスクリプションの販売方法では獲得できなかった顧客をコンテンツの切り売りをすることで獲得することができ、売上を増やすことができます。 まとめますと、上記のケースに共通するインパクトとしては、取引コストが安くなることにより、今まで経済的に意味を見いだすのが難しかった少額決済が経済的に意味のあるものとなり、推進されるということです。次に電気の場合について考えてみます。 電気の少額決済はローミングとともに使われる 通常、電気は使用場所を決め電力会社と契約し、基本料金に加え使った分だけの従量料金を毎月支払います。契約場所の家や会社で使用する分には通常少額決済という概念は当てはまりません。従って、契約場所以外で少量の電気を使うときを考えましょう。この場合は認証を伴い、携帯電話のローミングと似たようなイメージになります。 例えば、電気自動車のオーナーが自宅以外で充電する場合、カフェでノートPCを使用する場合などでしょう。法人であれば、上記個人の例に加え、自動販売機等の機材を借りた土地に設置する場合などがあるかもしれません。今回は個人の例で考えてみます。 自宅以外で電気自動車を充電する場合、現状では以下の選択肢があります。 1.商用の充電スタンドで毎分あたり○円(その他月会費や登録手数料が必要)で充電サービスを利用する 2.ショッピングセンターなどがサービスの一環として駐車場に設置している充電スタンドで無料で充電する 3.自動車メーカーが電気自動車オーナーに対し毎月定額または無料で充電できるシステムに加入し、スタンドから充電する 4.訪問先から電源を借りて充電する。何もしなければ電気代は訪問先負担となる。 このうち、1.2.3.は商用サービスとして成立しており、新たな少額決済のメリットはないかもしれません。最もメリットが生じるのは4.の場合でしょう。電気自動車の充電のために一回コンセントを貸したら電気代が跳ね上がることはありませんが、「電気のローミング」が可能になることにより、安心してコンセントを貸せるコンセントのオーナーが増え、電気自動車オーナーの利便性が増すことが期待できます。 参考まで、2時間充電したときの電気料金を概算してみます。日産自動車によると30kWhバッテリー内蔵の電気自動車リーフの充電時間は200V電源使用で約11時間(充電レベル0→80%)かかるそうです。仮に電気料金を25円/kWhとすると2時間の充電にかかるコストは、25円/kWh x […]

エネルギー×ブロックチェーンのコンソーシアム「Energy Web Foundation」組成

2017年3月21日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 今まで3回にわたり2月14日〜15日にオーストリア・ウィーンで行われた「Global Summit on Blockchain Technology in the Energy Sector」の会議に関して書いてきました。500人近くの参加者が集まった盛大な会議であったと書きましたが、それでは業界としてのまとまった取り組みはないのかと疑問に思った方もいらっしゃるかもしれません。実は、会議では重要なコンソーシアム組成の発表がありました。   エネルギー×ブロックチェーンのコンソーシアム「Energy Web Foundation」とは そのコンソーシアムとは、Energy Web Foundation(以下「EWF」と略します。)です。EWFは米国のRocky Mountain Institute(以下「RMI」と略します)とオーストリアのGrid Singularity(以下「GSy」と略します)が設立メンバーです。 RMIと言えばエネルギーの世界ではよく知られている研究機関です。代表のAmory Lovins氏は1977年に著書の「ソフト・エネルギー・パス」の中で大型の電力設備を増やす代わりに小型の分散型電源、再生可能エネルギー、節電や省エネの需要側管理でエネルギーの需要を満たすことを提唱し、すぐれた先見性を発揮しました。日本でもよく使われるようになった「ネガワット(ネガティブの電力、すなわち電力需要を削減すること)」もLovins氏の造語です。 GSyはエネルギー+ブロックチェーンに特化したオーストリアのスタートアップ企業で、本会議の企画・運営も行いました。GSy単独でのプロジェクトというのは聞いたことありませんが、他企業のプロジェクトのパートナーとしてGSyが入っていることより手広く活動している印象があります。主要メンバーの中にはEthereumの専門家が何人もいるようです。   EWFは、何をするコンソーシアムなのか […]

エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(3)

2017年3月7日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 前回・前前回に引き続き2月14日〜15日にウィーンで行われた「Global Summit on Blockchain Technology in the Energy Sector」の会議に関して書いていきます。前回は、分散化という切り口からブロックチェーンのエネルギー分野への適用性を考えてみました。今回はより具体的に、現在行われているまたは計画中のプロジェクトの紹介を含め、ユースケースに関して考察していきます。   現在考えられるブロックチェーン技術のユースケースは100個以上 会議1日目の発表の中で、ブロックチェーン技術のエネルギー分野のユースケースは100個以上が特定されているという調査結果の紹介がありました。100個以上とは、驚きです。この約半数が、計測とデータ伝送・請求・自動化などプロセスに関するユースケース、残りの半数が電力取引などプラットフォームとしてのユースケースであるということでした。 あくまでこれらは現時点で考えられる可能性と認識しますが、実際に走っているプロジェクトはどのようなものがあるのでしょうか。会議2日目に多くの時間を割いて行われたスタートアップ企業の発表から、注目すべきなものをいくつか紹介したいと思います。   エネルギー×ブロックチェーン事例紹介 Power Ledger (オーストラリア) EcoChainという独自の許可制(Permissioned)ブロックチェーンを使い、電力P2P取引を試みているようです。電力会社と合意を締結し、10000個以上のスマートメータを用いた実証試験を今年行う予定。電力会社のシステムと共存するようなシステムを目指すようです。 LO3 Energy(米国) ニューヨークのブルックリンで太陽光発電設備を持つ家庭が同地域内で電力を取引できる実証実験を昨年からすでに開始しています。すでに実証実験を開始している点ではパイオニア的存在かもしれません。ニューヨーク大停電の写真とともに、太陽光発電を使った地域での電力融通が電源の信頼性を向上させるというメリットが紹介されました。 BTL(カナダ・英国) すでにトロント証券取引所ベンチャー市場に上場している企業で「interbit」というブロックチェーンのプラットフォームを展開しています。このプラットフォームを使って今年欧州と米国で実証実験を行うとの発表がありました。(会議終了後、オーストリアのWien […]

エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(2)

2017年2月23日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 前回に引き続き2月14日〜15日にウィーンで行われた「Global Summit on Blockchain Technology in the Energy Sector」の会議に関して書いていきます。1日目にイーサリアム財団のヴィタリック・ブテリンが登壇し、分散化(decentralization)についての議論を展開しました。その一部をご紹介します。 そもそもブロックチェーンはエネルギー分野に役立つのか? まず、分散化という広い概念をよりよく理解するために分散化する対象としての次の3つの側面から整理を試みました。 アーキテクチャーの分散(物理的システムの分散) 政治の分散(ブテリンは「政治」というややスケールの大きい単語を使いましたが、コントロールする主体と考えればよいかと思います) 論理の分散(インターフェイスやデータ構造) その上で、分散システムのメリットとして、次の4つを挙げました。 故障に対する耐性(中央集中システムの故障の例として2003年の米国・カナダの大停電) 攻撃に対する耐性(中央集中システムが攻撃された例としてアシュレイ・マディソンという不倫出会い系サイトのデータベースがハックされ、個人情報が漏洩した) 談合や独裁体制を形成することに対する耐性(独裁体制の例として、APIが更新されてツイッターのサードパーティー製アプリケーションの使用が制限された) 効率性の向上 ブテリンはエネルギー分野での応用については特に議論せず、分散システム一般の議論に終始していました。そして最後に、エネルギー分野で分散化が意味のあるものであれば、ブロックチェーンは役に立つと結論付けました。ブテリンが示した枠組みは「そもそもブロックチェーンはエネルギー分野で使えるのか」という問いを考えるのに有効かもしれません。現在の電力システムに当てはめて考えてみましょう。 電力システムについての分散化の対象となる3つの側面は簡単に書くと以下のようになっています。   1.アーキテクチャーの分散 中央の大型発電所から送配電網を通って末端の需要家に電気を届ける方式が主流であり、大部分です。この中央集権型の構造を大きく変えるには至っていませんが、分散型の発電設備も近年増加しています。 […]

エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(1)

2017年2月14日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 2月14日〜15日にオーストリアのウィーンでGlobal Summit on Blockchain Technology in the Energy Sectorという国際会議が開催されました。ブロックチェーン関連の国際会議はたくさんありますがエネルギー分野に特化した会議は他に聞いたことがなく、急遽参加することに決め、2日間の会議を聴講して来ました。 同会議の様子をご紹介しながら、エネルギー分野のブロックチェーン最新状況について、数回に分けてご紹介していきます。内容は、以下の通りです。 ブロックチェーン技術はエネルギー分野に応用できるか エネルギー分野へのブロックチェーン応用のユースケース 規制や既得権益の多い同業界で、スタートアップにチャンスはあるのか 取り組みを始める世界各国のプレイヤー紹介 今後、考えうる事業展開のシナリオとは   ブロックチェーン×エネルギー分野に世界中から注目集まる 会議は36カ国から約450人が集まり、大盛況でした。開催国であるオーストリアをはじめヨーロッパ諸国からの参加が多かったですが、米国からは26人、日本からは13人の参加がありました。ブロックチェーンのエネルギー分野だけで450人もの人が集まったということはポテンシャルの大きさを感じます。 参加者の内訳は大手エネルギー会社や電力会社の代表からソフトウェア開発業者や研究者まで様々でした。私が休憩時間等に話した人は、特にエネルギーやブロックチェーンに直結した事業を持っていなくても情報収集あるいは様子見で会議にやって来たという人も多かったです(私もその一人ですが)。多くの人が虎視眈々と機会を狙っていることがわかります。   すでにエネルギー分野の覇権めぐり各国が動き始めている なぜオーストリアで開催されたかというと、オーストリアにはGrid Singularityというエネルギー分野でブロックチェーン技術を応用することに特化したベンチャー企業があることと関連がありそうです。次回以降の記事で書きますが、同社の戦略的パートナーを中心にコンソーシアム組成の発表があり、この会議開催の裏にはエネルギー分野で覇権を取ろうと戦略的に動いている組織の存在を感じました。 ブロックチェーン技術のエネルギー分野への応用の状況を一言で言うと、裏では世界各国でいろいろな活動が進行していますが、実証実験や実物への展開はまだ数えるくらいしか行われていない段階です。従って、本会議も各社が実証実験や商用運用の成果を発表する場というよりは、業界共通の課題を共有・議論したり、概念や計画を発表する場でした。 […]

ブロックチェーンは中央集中型の電力システムを変えられるか

2017年1月30日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 ビットコインの中核技術ブロックチェーンが金融分野以外でどのような「キラーアプリケーション」を形成するのでしょうか。2017年1月現在、不動産、保険、ライドシェア、行政、企業経営など各分野で初期のアプリケーションやサービスが萌芽しています。 本記事では、電力の制度や電気の使われ方が変わっていく中で、ブロックチェーンを使い、電力の分野で価値を創出できるかを議論します。プライバシーを守り、取引記録の正統性を保持し、中央集中型から分散型システムへの移行を促すブロックチェーンの特性が電力システムを変革できる可能性があるのではないかと考えています。   電気の流れは一方通行からネットワーク型へ 現在の電力流通システム(発電した電力を需要家に送るシステム)はトーマス・エジソンの時代に発明され、大きく変化することなく現在に至ります。電力流通システムの最上流にある電力会社が保有・運用する大型発電で発電された電気は高圧送電網・変電所・配電網を通じて電力流通システム最下流の最終需要家に届けられます。例えば、新潟県や福島県の大型発電所で発電した電気を数百キロメートル送電し、需要地の東京に送っています。 この中央集中型電力流通システムの想定は、電気の流れは常に一方通行で、システムの最下流にいる需要家はただ電気を消費するだけということでした。しかし、この前提は崩れつつあります。 1990年台から家庭への普及が始まった太陽光発電は2012年の固定価格買取制度開始で大きく普及に弾みがつき、制度開始後2016年11月までに446万キロワットが導入されました。発電容量だけで見ると、これは100万キロワットの原子力発電所の4基分に相当します。2015年に経済産業省が発表した長期エネルギー需給見通しでは2030年の家庭用太陽光発電の導入目標を900万キロワットとしており、今後も普及は進んでいきます。 一方、太陽光発電よりも普及のスピードはゆるやかですが、家庭用コージェネレーションシステムも現在までに約20万世帯に導入されました。送配電網から送られてくる電気を消費しつつ、太陽光発電やコージェネレーションシステムで発電を行う需要家は今後も増える一方です。(このように消費者でありながら生産者である人たちは「コンシューマー」と「プロデューサー」を組み合わせた「プロシューマー」と呼ばれています。) システムの最下流にいる需要家が発電も行い、以前は一方通行だった電気の流れが双方向・ネットワーク状に変わりつつあります。   取引も「1:N」から「N:N」にすることのメリット 現在は再生可能エネルギーの固定価格買取制度があり、家庭で消費できなかった太陽光発電の余剰電力は電力会社や新電力が買い取っています。しかし、買取単価は毎年下がっていき、何年か後には家庭が払っている電気料金の単価よりも低くなる見込みです。この状況では電力会社に売電するよりも自家消費した方が経済的に有利になります。 家庭用の電力の単価は現在25-26円/キロワット時といったところでしょうが、2019年の太陽光発電の買取単価はこれよりも低い24円が提案されています。(2017年1月現在)さらに、固定価格買取制度はいずれ廃止されてしまうので、電力会社は余った電気を買い取ってくれるとしてもその価格はとても安いものになるでしょう。 昼に太陽光発電で発電した電気を夜に使えるように安価な蓄電池が普及すれば問題ないのですが、現在太陽光発電用の蓄電池は100万円前後もする高価なものです。そこで太陽光発電の余剰電力を同地域の別の家庭に電力会社の買取価格よりも高い価格、かつ取引先の家庭の電気料金よりも安い価格で取引できることを想定してみましょう。 例えば、余剰電力を電力会社に売ればキロワット時あたり10円とします。25円で電気を買っている近所の家に22円で売ることができれば売り手の家庭、買い手の家庭双方ともに経済的メリットが生じます。充分な経済的インセンティブが確保されれば今後の太陽光発電の普及も順調に進むでしょう。 この取引のためには電気を流す送配電インフラは電力会社のものを使わざるを得ませんが、情報システムは中央の権限が不要で対等な需要家同士の取引(P2P取引)に対応できるブロックチェーンが最適である可能性があります。 金融機関を通さなければ送金ができない状態から、暗号通貨のシステムを使って金融機関の仲介なしに送金ができるようになるのと同じです。電力会社から複数の需要家「1:N」だった取引形態が「N:N」になるに従い、情報システムもその形態に適合した分散構造にするということです。   ブロックチェーンの分散構造を活かす 現在は家庭の太陽光発電で発電した電気を売電するときには、売り先がどの会社(例えば、新興の小売電気事業者)でも、必ず電力会社(関西電力や中部電力など)が電力メータから情報を集め、売り先の会社に提供します。すなわち、一極集中型の情報システムになっており、電力の取引には直接介在しない電力会社なしに取引が行えないことになっています。 この方式だと、冗長性がないため、中央のシステムに不具合が起きたときに甚大な影響が生じます。実際、2016年4月の電力小売自由化開始時には、東京電力パワーグリッド株式会社のシステムが不具合を起こし、その他の電力小売事業者(新電力)は顧客に使用量を通知できない、課金請求ができない、誤請求を行っていたなどの問題が発生しました。 使用量を確定できていない顧客の数は2016年9月現在で8000件以上にものぼり、2017年1月現在、問題の全面解決には至っていない模様です。電力小売自由化に伴い新規参入した小売事業者は、自社の責任ではない不具合のためにせっかく新規確保した顧客からの信頼を失いかねないという状況だったと懸念します。 各顧客の電力使用量や発電量のデータをブロックチェーン上に記録し、そのデータを複数のノードで保持すればどうでしょう。分散型システムのブロックチェーンでは全てのノードが一度にダウンする可能性は非常に低く、上記のような不具合が起こる可能性は実質的にはゼロに近くなります。 ブロックチェーンのシステムでは、電力メータで計測した使用量や発電量が正しい限り、データの改ざんはできません。使用量を少なくして料金を減らす、発電量を水増しして収入を多くするなど取引の正真性を損なうことはできません(メータそのものへのハッキングの問題は残りますが)。 […]