再生可能エネルギー・未来の電力システムとブロックチェーン

2017年5月2日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 以前に公開しました「ブロックチェーンは中央集中型の電力システムを変えられるか」および「エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(2)」では分散型システムという観点から電力システムにおけるブロックチェーンの活用可能性を議論しました。今回は、市場経済型をキーワードにしてさらに議論を深めてゆきます。   未来の電力システムは市場経済型 日本では2012年の固定価格買取制度開始後急激に太陽光発電が普及しましたが、2016年11月時点の経済産業省のデータを基に計算すると太陽光発電と風力発電を合わせても日本の全発電量の5%以下(太陽光3.6%・風力0.6%)です。一方、国際エネルギー機関(IEA)によると、デンマークでは太陽光発電と風力発電の発電量が全発電量の50%超、アイルランド、ポルトガル、スペイン、ドイツでは20-25%と日本より大幅に高い割合で普及が進んでいます。 国際エネルギー機関の報告書によると、電力系統が大量の再生可能エネルギーを受け入れるための3つの柱の一つとして、電力システムと市場と運用の改善が挙げられています。従来の電力システムは計画経済的であり、過去のデータや気象データから未来の需要を予測し、供給計画を立てるという方法が使われていました。しかし出力が絶えず変動する再生可能エネルギーの発電をうまくとり入れながらシステムを運用するためにはよりリアルタイムに近い市場経済型の運用に移行することの必要性が示唆されています。 上記の欧州各国では電力供給の信頼性を大きく損なうことなしに変動電源である再生可能エネルギー大量普及を達成しており、電力システムの運用も市場経済型に近づく取り組みが見られます。例えばアイルランドでは負荷配分の時間幅を10分未満に短縮し、リアルタイムに近い需給バランスの運用を行っています。また、卸売市場における入札に基づく負荷配分の最終更新は当該時間前30分未満となっており、柔軟性の高い市場取引を確保しています。 日本は2003年に日本卸電力取引所が設立し取引が行われてきましたが、当時の日本は地域独占・垂直統合型の電力システムであり、変動電源の再生可能エネルギーの普及率も低かったため、このようなリアルタイムに近い市場経済型のシステム運用の必要性は強くありませんでした。現在進行中の電力システム改革の最終段階で2020年までに現在の垂直統合型の電力会社から発電と送配電が法的に分離した構造分離型に移行しようとしていますが、この改革の中で市場経済型に近づくことができるのではないかと考えます。   市場経済型取引プラットフォームとしてのブロックチェーン 前置きが長くなりましたが、上述のような変動電源である再生可能エネルギーが多く系統に接続した電力システムの姿を以下の図にまとめます。これを達成するためには電力系統制御や需要管理に関わる電気工学を基にした技術も必要になってきますが、取引のプラットフォームとしてはブロックチェーンが有用と考えます。すなわち、その他のハードウェアや仕組みが整っていればブロックチェーンにより市場経済型のシステムへの移行を加速することができます。 ブロックチェーンが優位性を発揮すると考える理由は以下です。このうち、市場経済型・取引主体の運用に大きく関連する理由は2)と3)です。 分散型エネルギーシステムの物理的アーキテクチャーにより適合している。現状は一般送配電事業者と小売事業者が電力使用量の情報を中央集中的に処理しているが、ブロックチェーンを使えば中間業者を入れずに当事者間で取引が可能。 異なるタイプの市場参加者間(従来の発電、分散型発電、デマンドレスポンス参加者、消費者など)で、中央の権威に頼らず「トラストレス」な信頼を確保した取引が実現可能。 中央の卸売市場だけでなく、地域小売市場などきめ細かい市場取引が可能である。これにより託送料金を一律でなく距離に応じた課金にするなど公正な料金形態も実現しやすい。 信頼性の高い取引により地域主体で地産地消を推進するエネルギーシステムの構築が容易である。例えば自治体や地域の事業者が主体となって電力事業を進めやすい。ある地域をマイクログリッドにしてしまえば電力会社との契約は一つで、その中での取引は自由に可能。 再生可能エネルギーの価値をトークン化、証書化し流通されるのが容易。 経済産業省が2015年に発表した日本の2030年の導入目標は太陽光発電が日本の発電量全体の7%、風力発電が同1.7%と、上記欧州の導入実績値と比較しても控えめな数字になっていますが、太陽光発電はコストが下がり続けていることからこれからも導入は進むと予測されます。今までは「メガソーラー」と呼ばれる大型の太陽光発電所の建設が進みましたが、今後は買取価格が下がるため、大型の発電所よりも住宅や事業所の屋根に設置して発電した電力を自家消費し、余剰分を売電するスタイルが有利になると考えます。多くの分散型電源が接続された電力システムはすでに現実のものであり、今後も推進されるでしょう。 今までブロックチェーンのユースケースを調査し、電力の個人間取引やマイクロペイメントを見てきましたが、これらは始まりであり、長期的には電力の取引部分を担う中核技術として発展する可能性が大きいと感じます。   まとめ 電力システムの大きな流れとして中央集中型・一方向型から分散型・ネットワーク型への移行があります。これは、安価な太陽光発電・蓄電池などの技術の普及により大きく推進され、この流れは不可避だと考えます。また、今年度に創設されたネガワット(節電)取引市場、経済産業省が昨年度から実証事業として行っているバーチャルパワープラント(需要や蓄電池の集約・制御技術を使った技術)など、需要を集約化・能動化することによる電力システムの運用手法も普及し、トップダウンで発電することから送配電ネットワークの運用へ重要性の移行が進んでいます。 一方、出力が絶えず変動する太陽光発電・風力発電の普及は今後も続き、さらに多くの再生可能エネルギーが系統に接続されます。今までの計画経済的な電力システムでは大量の再生可能エネルギーを取り込むことは難しく、市場経済型のシステムを導入し、価格シグナルを利用することにより需給バランス確保をはじめとする電力システムの運用を行う必要があります。 市場経済型システムを言い換えると、取引主体のシステムとも言えます。従来型発電、クリーンな付加価値を持つ再生可能エネルギー発電、需要を削減して需給バランス確保に貢献するデマンドレスポンス、ネットワーク使用量を徴収する送配電事業者など多様なプレイヤーが地域レベルで取引を行うことにより運用される電力システムに移行するということです。 ブロックチェーンはこのような取引の明確化や正真性の確保に貢献し、中間業者なしに当事者間での取引を可能にする取引プラットフォームの核となるテクノロジーになるのではないかと考えます。但し、ブロックチェーンは万能ではなく、再生可能エネルギーの大量導入や需要管理には従来の電気工学を基にした技術の導入も不可欠と考えます。 […]

ブランド品の真贋判定「VeChain」中国のブロックチェーン活用事例紹介

2017年4月27日 Wang Pengfei 0

中国では、ブランド品の偽物にもランクがあることをご存知でしょうか?「Plada」「Cucci」のように明らかな偽物もあれば、専門家でないと判定できなく、本物とほぼ変わらないハイランクの偽物もあります。ブランド品の生産を請負った中国の工場がだまって鐘形をそのまま使い、本物とほぼ同じな偽物を生産する場合すらあり、それを見分けることが極めて難しいのです。 メーカーも消費者も頭を抱えている偽物問題を解決には、ブロックチェーンという選択肢があるとBitSE社の管理層が気づきました。   ブロックチェーン技術によりブランド品の偽物を防ぐ  BitSEは「Bit Service Expert(ビットサービスエキスパート)」の略で、「ブロックチェーン技術でグローバル経済活動協力の効率化や信頼コストの削減」を目指している会社です。同社のCOO陸揚氏は中国Louis Vuittonの元CIOで、ブランド品の偽物問題をよくわかっているでしょう。 2015年10月、BitSE社はブロックチェーンを活用した偽物対策のプロジェクト「VeChain」を発足しました。ブロックチェーン技術の記録された情報が改ざんが困難であるという特徴を活用して、商品データの偽造を防ぎ、世界中のどこからでも商品データにアクセスすることを可能とします。 VeChainでは、メーカーおよび消費者向けに2種類のプロダクトを提供しています。メーカー向けのプロダクトは商品管理プラットフォームと商品に内蔵できるNFCチップです。消費者向けのプロダクトはスマホアプリで、消費者はスマホを使って商品が偽物かどうかをすぐに見分けることができます。   有名ブランドとのタイアップも果たす「VeChain」 2016年10月11日、中国の「東京ガールズコレクション」ー上海ファッションウィークでは、VeChainは数多くの有名人が愛用しているブランド「Babyghost」とコラボレーションして、全ての服にVeChainのチップを内装しました。このNFC機能を使い、商品の内蔵チップの情報を読み込み、ブロックチェーン上の情報と照らし合わせ、偽物かどうか判断でき、商品の生産情報なども全て確認することができます。 VeChainの技術がその他のブランドに広まることで、中国の偽物問題を解決できるかもしれません。今後の動きにも期待しています。   関連記事: チャリティーへのブロックチェーン活用「Ant Financial」|中国のブロックチェーン活用事例紹介  

ブロックチェーンは国家を超越するか – Bitnationとエストニアから見る未来国家

2017年4月24日 久保田 紘行 0

中央集権機関による管理を必要としないブロックチェーンには、実に様々な活用可能性があります。ビットコインにおいて通貨発行を担う中央銀行が存在しないのと同じように、政府という最も巨大な中央集権機関をも必要とせず自律分散的に動くのがブロックチェーンの最たる特徴です。 今回の記事では「ブロックチェーンと国家」というテーマで、自律分散的な国家を目指すビットネーション(Bitnation)というプロジェクトと、2000年代から急速に行政サービスの電子化が進んでいるエストニアの事例を合わせてご紹介します。   信頼性を担保する役割としての国家 さまざまな文書の記録やその内容の証明を行うときには、信頼性をどのように担保するかが問題となります。従来は第三者が仲介することで記録の信頼性を担保する必要がありました。しかしながら、改ざんが困難なブロックチェーン上に記録しそれらを参照することで、記録の存在や内容を証明すること(Proof of Existance、プルーフ・オブ・イグジスタンス)ができます。「ブロックチェーンに記録されている」という事実そのものが、信頼性の根拠となりうるのです。 ではこれによって具体的には何が実現できるのでしょうか。第三者が仲介することで信頼性を担保していたものは実に多くありますが、その最たるものに行政による公的認証サービスがあります。例えば、土地の登記や戸籍謄本など、国民や国家に関する実に多くの情報が行政サービスを通じて集中的に管理されています。この膨大個人情報の管理には大きなコストがかかっています。これをブロックチェーンによって効率化することを目指すプロジェクトが存在します。「Bitnation」というプロジェクトです。   Bitnation(ビットネーション)とは? – 公証サービスの自動化 ビットネーション(Bitnation)は、イーサリアムを利用し国家の手を介すことなく様々な認証を自動的に行うプラットフォームを提供するプロジェクトです。いわゆる公的認証サービスとして従来国家が担ってきたものをスマートコントラクトを活用し自動化することで、管理にかかるコストや手間を大幅に削減できます。具体的には土地登記、婚姻届、出生届、死亡届、パスポートなどのID、戸籍登録、財産権の記録などがあります。 Bitnationはインターネットの普及や、輸送にかかる時間短縮やコスト低下などに伴うグローバリゼーションが進行する一方で、国家や国籍が領土と密接に結びついていることを地理的制約であるとして問題視しています。Bitnationは従来政府が担ってきた認証サービスを代替することで、最終的にブロックチェーン上に地理的な制約にとらわれることのない自律分散的な国家を構築することを目指しています。 BitnationによるID発行と行政サービス提供は既に実現しており、国民として登録されていない難民をブロックチェーン上に登録するなどの取り組みも行われています。またネットワーク上に構築された共同体として、投票機能や、スマートコントラクトを利用した民事契約の体系など、共同体のガバナンスに必要な諸機能を整備する計画も明らかになっています。近代国家に代わる存在として、居住地や国籍にとらわれず世界中の人々が多様な選択肢の中から自ら共同体を形成したり選択できるようになる世界もありうるかもしれません。 このようにBitnationの掲げるビジョンは、国家の役割を代替しうるものであり、ある意味では国家という存在に真っ向から対立するようにも思えます。しかし一方で、エストニアがBitnationとの提携を進めています。詳しく見ていきましょう。   なぜエストニアなのか? – 電子立国「e-エストニア」 エストニアは北欧にある、総人口130万人程度(沖縄県と同程度)の小国です。1991年のソ連崩壊に伴って独立を果たしたのち、様々なIT技術を活用して電子立国の取り組みを進めています。エストニアの取り組みは「e-エストニア(e-Estonia)」と呼ばれ、教育、司法、警察、閣議など行政の電子化に加え、2002年に導入されたデジタルIDカードが「e-エストニア」の大きな柱となっています。 エストニアでは一人一人に割り振られた国民IDに従って、様々な個人情報が自動的に紐づけられて管理されています。エストニア国民はデジタルIDカードを用いることで自らの個人情報にアクセスし、様々なサービスを受けることができます。例えば、納税から土地登記、教育、医療、選挙、法人登記、電子署名、公共交通機関の運賃支払いに至るまで、実に幅広いサービスをオンラインかつペーパーレスで実施することができるのです。 これにより国民・政府の双方において手間やコストが大幅に削減され利便性の向上が実現されていますが、個人情報を電子化し政府が一括管理することにはプライバシーの問題が懸念されます。これに対しエストニアでは個人情報保護法に基づき、国民が自らの個人情報へのアクセスログを確認し、またデータ保護庁にアクセス理由を問い合わせることができるようになっています。このように「自分の情報を自分自身でコントロールできる」という仕組みを構築することで個々人のプライバシーにも配慮されています。 現在、エストニアにおける多くの電子サービスはX-Roadというクラウドサービス上に構築されています。しかしクラウドサービスでの個人情報の管理にかかるセキュリティコストや、アクセスログの確認など個人情報の自己コントロールなどの観点から、記録の改ざんが困難なブロックチェーンの活用は非常に適していると言えるでしょう。   […]

ブロックチェーンで分散型Uberは実現するか?

2017年4月11日 大串 康彦 0

ブロックチェーンを使ったSUberとは ブロックチェーンは金融分野以外にも広く応用が提案されていますが、多くが概念実証段階であり、ブロックチェーンの真価が発揮されるのを見るまでにはまだ時間がかかりそうです。「シェアリングエコノミー」も本人確認、信頼性の担保、取引の正真性の確保など信用に依存する部分があり、ブロックチェーンが貢献することが期待されています。未来の可能性としては、例えば次のようなシナリオが考えられます。 車を所有するのは過去のこととなり、ほとんどの人はライドシェアを利用している。たとえばシカゴでメリッサという女性がSUber(ブロックチェーンを使った「スーパー・ウーバー」)で車をリクエストしたとしよう。近くにいる自動運転車が条件をオファーし、メリッサのノードはあらかじめ登録した条件にもとづいて望ましいオファーをメリッサに見せる。メリッサは到着時間などの情報を考慮しながら、希望する条件を選ぶことができる。 自動運転車はスマートコントラクトで自動的に動き、自分の判断でメリッサにサービスを提供する。もっとも効率的なルートを探し、責任持って目的地まで送り届ける。無事に目的地に着いたら、スマートコントラクトで自動的に精算が完了する。自動運転車は手に入れたお金の一部を使って、必要であれば自分を清掃したりメンテナンスしたりする。 ドン・タプスコット+アレックス・タプスコット 「ブロックチェーンレボリューション」P184から引用 以上は中央集権型で巨大な手数料ビジネスとなっているUberに代わりブロックチェーンを使った分散型のSUberというサービスが普及したというシナリオの一部です。本記事では、このようなシナリオに向かって動き出したスタートアップの事例La’zoozとArcade Cityを紹介します。 La’zooz   La’zoozはイスラエルで2013年に設立した「コミュニティが所有する分散型交通プラットフォーム」です。zoozというトークンを発行し、最終的には分散型の経済圏の生成を目標としているようですが、最初のサービスとしてリアルタイムライドシェアリングの提供を目指しているようです。(リアルタイムライドシェアリングというのは事前に相乗りを予約するのではなく、「今すぐ乗る」ことを前提に運転手と利用者をマッチングさせるサービスです。Uberもリアルタイムライドシェアリングのサービスです。) La’zoozはすでに走っている車の空席を埋め、稼働する車の台数を減らすことで車や道路への投資を減らし、交通問題を緩和するという大きな目標を掲げています。ドライバーとして稼ぐことを推奨・宣伝しているUberとの大きな違いの一つです。 Zoozトークンはトークンセールで購入する、開発に参加する、スマートフォンのGPSによる移動情報を提供する(「proof of movement」)ことのいずれかにより入手可能です。サービスの支払いにはzoozを使います。「collaboration(協力)」がキーワードになっており、運転手・プログラマー・デザイナーがその貢献度に応じてzoozトークンが支払われる仕組みになっているようです。このへんはUberより民主的に見えます。 ユーザーインターフェイスはAndroidのアプリを使っています。ブロックチェーンをどう使っているかは情報がありませんが、乗車記録、評判、支払い記録などをブロックチェーンに記録し、到着確認や評判の投稿などある条件でスマートコントラクトによる自動的に支払いが行われ、zoozが分配されることが考えられます。 肝心のサービスですが、La’zoozのウェブサイト中のCommunity Members Mapによると2017年4月現在、サービスが提供されている形跡がありません。リアルタイムライドシェアリングは普及戦略が重要で、ある地域内に一定の運転手と利用者の密度(「クリティカル・マス」といいます)が確保できないとマッチングが成立せず、サービスの提供ができません。まだクリティカル・マスに達した地域がない模様です。 La’zoozの場合、ある地域でクリティカル・マスに達するまでは「ゲームモード」になり、登録者(サービス利用希望者)がサービス利用希望者を増やすごとにzoozトークンが付与されるというインセンティブがあります。そしてクリティカル・マスに到達した後、サービスが開始される設計になっています。 残念ながらサービスが提供された形跡を確認できないため、La’zoozはまだ概念段階と評価せざるを得ません。   Arcade City Arcade Cityは搾取的な待遇に不満を持った元Uberの運転手が開始したライドシェアリングのプラットフォームで、分散型のUberのようなサービスを目指しています。ユーザーインターフェイスとしてiOSとAndroidのアプリが2017年3月にリリースされました。筆者が試したところダウンロードおよび登録は可能でしたが、おそらく東京でサービスが提供されていないこともありサービスを使うことはできませんでした。 […]

チャリティーへのブロックチェーン活用「Ant Financial」|中国のブロックチェーン活用事例紹介

2017年4月6日 Wang Pengfei 0

前回の記事では、中国取引所において取引手数料と取引高に密接な関係があることを解説していきました。今回からは、何回かにわたって中国でのブロックチェーンを活用した事例について紹介していきます。 中国においては寄付金の流れが不透明なため、寄付者から不満も 中国においては寄付されたお金は横領されたり、寄付先に必要なものは届かなず不要なものばかり届いたりと、チャリティー組織は本当に機能しているかと疑問や不信感を抱えている人が少なくない現状です。 こういった事情を背景として、寄付金の使い途をリアルタイムで知るとこができる方法がないかと多くの人々が問い続けています。 ブロックチェーンはその答えかもしれません。 タオバオをはじめとしたネットショップサイトで利用されており中国オンライン決済の約52%を占める決済サービス「アリペイ」を提供している会社Ant Financialは、チャリティー組織「中華社会救助基金」と協力し、中国初のブロックチェーン上のチャリティー活動を行い、10人の聴覚障害児のために19.84万元(約318万円)もの募金を集めました。 聴覚障害児は、1年間のリハビリテーションを受けると聴覚を回復できます。しかし、それには年間一人約31.8万円の治療費が必要なので、経済的な問題でリハビリテーションを受けることができない子供が10人いました。この子供たちのために、Ant Financial社は今までにない、ブロックチェーン技術を使った募金活動を実施しました。 アリペイには、もともと簡単に寄付をすることができる機能が備わっており、アリペイのユーザーなら誰でも自分のアリペイ口座にあるお金を募金プロジェクトに寄付することができます。しかし、主催者の都度の更新が必要なので、リアルタイムで寄付金の行方は確認できませんでした。 今回の募金活動はブロックチェーン技術を利用し、下記の図のように、「いつ、誰が、いくら寄付したか」だけではなく、「いつ、誰に、いくらが届いたか」までブロックチェーン上で記録しており、寄付者はいつでもお金の流れを確認することができるようになりました。 結果として3万人以上が聴覚障害児のために寄付しており、10日間で目標金額に達成しました。中華社会救助基金会の会長胡広華氏は「今回の募金活動の全ての開示情報は、ブロックチェーン上のデータから読み込んだので、信ぴょう性を保証した上で、コストの削減も果たしました。」とコメントしています。 ブロックチェーンの透明性という特徴を活かした良い活用例といえるでしょう。暗号通貨(仮想通貨)は少額決済(マイクロペイメント)にも向いていますので、少額からインターネットを介しての寄付がより行いやすくなるかもしれません。 次回以降も、中国のブロックチェーン活用事例を具体的に紹介していきたいと思います。

ブロックチェーンで電気の少額決済(マイクロペイメント)は普及するか?

2017年4月4日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 ブロックチェーンの特徴の一つとして「取引コストが低い」というものがあります。これは、ブロックチェーンにより仲介者なしの直接取引が可能になり、従来手数料を徴収していた仲介者が不要になることに起因するところが大きいです。取引コストが安くなれば少額の送金や現金以外での通貨の支払いにもメリットが出るし、デジタルコンテンツをはじめとする少額決済(マイクロペイメント)も意味があるものになるでしょう。 それでは、電気はどうでしょうか。本記事では電気の少額決済とは果たして意味があるのか、そしてブロックチェーンにより電気の少額決済は普及する可能性があるのかを考察してみることにします。 取引コストが低くなると少額決済のインセンティブが生まれる まず、取引コストが低くなることのメリットやインパクトについて考えてみます。最初のケースとして金融機関の送金手数料を考えます。仮定として、金融機関が徴収する送金手数料は取引コストを反映しているとします。 仮にある金融機関の3万円以下の送金手数料が300円だったとします。3万円送金するときの手数料は300円となり、現状の商習慣からは妥当でしょう。しかし500円送金して300円の手数料を徴収されたのでは、手数料は送金額の60%となり、とても高い印象を与えるかもしれません。結果、利用者は送金を諦めてもっと安い別の方法を探すかもしれません。 仮に、金融機関の取引コストが下がり、送金手数料が送金額の1%になったとします。今度は500円送金するときの手数料は5円です。この額では利用者は喜んで送金を行う可能性が高いでしょう。つまり、取引コストの低下により今まで行われなかった少額の送金が行われるようになります。 同様な原理はクレジットカードの手数料などにも当てはまります。客単価があまり高くない飲食店などで「クレジットカードでの支払いは○○円以上のみ対応します」のようなルールを見ますが、これは店側が払う少額決済のときのクレジットカードの手数料が割高となり、利益を損ねるためと推測します。取引コストの低下により、この問題は解決され、店は少額でもクレジットカードの支払いに対応できるようになるでしょう。 「1記事50円」でも商売が成立 次に、送金ではなくデジタルコンテンツの販売を考えてみます。取引コストが低くなると、今まではまとまった単位でしか売っていなかった記事、音楽、写真などを少額で切り売りして販売することが可能になります。上記の例と同様、少額決済が経済的に意味のあるものとなり、ニーズがあれば販売が推進されると予測します。 この場合は、売り手と買い手の両者にメリットが生じます。買い手は、今まで特定のコンテンツにアクセスするためには、コンテンツのまとまり(音楽のアルバムや書籍一冊)や毎月定額の購読料(サブスクリプション)を購入するしかありませんでした。 しかし、この買い手はコンテンツの一部分にしか興味がなく、それを入手するためにコンテンツのまとまりや購読を購入することは高額で割に合わないと考えていました。欲しかったコンテンツのみを少額で購入できるのですから嬉しいはずです。 売り手は、今までコンテンツの塊やサブスクリプションの販売方法では獲得できなかった顧客をコンテンツの切り売りをすることで獲得することができ、売上を増やすことができます。 まとめますと、上記のケースに共通するインパクトとしては、取引コストが安くなることにより、今まで経済的に意味を見いだすのが難しかった少額決済が経済的に意味のあるものとなり、推進されるということです。次に電気の場合について考えてみます。 電気の少額決済はローミングとともに使われる 通常、電気は使用場所を決め電力会社と契約し、基本料金に加え使った分だけの従量料金を毎月支払います。契約場所の家や会社で使用する分には通常少額決済という概念は当てはまりません。従って、契約場所以外で少量の電気を使うときを考えましょう。この場合は認証を伴い、携帯電話のローミングと似たようなイメージになります。 例えば、電気自動車のオーナーが自宅以外で充電する場合、カフェでノートPCを使用する場合などでしょう。法人であれば、上記個人の例に加え、自動販売機等の機材を借りた土地に設置する場合などがあるかもしれません。今回は個人の例で考えてみます。 自宅以外で電気自動車を充電する場合、現状では以下の選択肢があります。 1.商用の充電スタンドで毎分あたり○円(その他月会費や登録手数料が必要)で充電サービスを利用する 2.ショッピングセンターなどがサービスの一環として駐車場に設置している充電スタンドで無料で充電する 3.自動車メーカーが電気自動車オーナーに対し毎月定額または無料で充電できるシステムに加入し、スタンドから充電する 4.訪問先から電源を借りて充電する。何もしなければ電気代は訪問先負担となる。 このうち、1.2.3.は商用サービスとして成立しており、新たな少額決済のメリットはないかもしれません。最もメリットが生じるのは4.の場合でしょう。電気自動車の充電のために一回コンセントを貸したら電気代が跳ね上がることはありませんが、「電気のローミング」が可能になることにより、安心してコンセントを貸せるコンセントのオーナーが増え、電気自動車オーナーの利便性が増すことが期待できます。 参考まで、2時間充電したときの電気料金を概算してみます。日産自動車によると30kWhバッテリー内蔵の電気自動車リーフの充電時間は200V電源使用で約11時間(充電レベル0→80%)かかるそうです。仮に電気料金を25円/kWhとすると2時間の充電にかかるコストは、25円/kWh x […]

エネルギー×ブロックチェーンのコンソーシアム「Energy Web Foundation」組成

2017年3月21日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 今まで3回にわたり2月14日〜15日にオーストリア・ウィーンで行われた「Global Summit on Blockchain Technology in the Energy Sector」の会議に関して書いてきました。500人近くの参加者が集まった盛大な会議であったと書きましたが、それでは業界としてのまとまった取り組みはないのかと疑問に思った方もいらっしゃるかもしれません。実は、会議では重要なコンソーシアム組成の発表がありました。   エネルギー×ブロックチェーンのコンソーシアム「Energy Web Foundation」とは そのコンソーシアムとは、Energy Web Foundation(以下「EWF」と略します。)です。EWFは米国のRocky Mountain Institute(以下「RMI」と略します)とオーストリアのGrid Singularity(以下「GSy」と略します)が設立メンバーです。 RMIと言えばエネルギーの世界ではよく知られている研究機関です。代表のAmory Lovins氏は1977年に著書の「ソフト・エネルギー・パス」の中で大型の電力設備を増やす代わりに小型の分散型電源、再生可能エネルギー、節電や省エネの需要側管理でエネルギーの需要を満たすことを提唱し、すぐれた先見性を発揮しました。日本でもよく使われるようになった「ネガワット(ネガティブの電力、すなわち電力需要を削減すること)」もLovins氏の造語です。 GSyはエネルギー+ブロックチェーンに特化したオーストリアのスタートアップ企業で、本会議の企画・運営も行いました。GSy単独でのプロジェクトというのは聞いたことありませんが、他企業のプロジェクトのパートナーとしてGSyが入っていることより手広く活動している印象があります。主要メンバーの中にはEthereumの専門家が何人もいるようです。   EWFは、何をするコンソーシアムなのか […]

エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(3)

2017年3月7日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 前回・前前回に引き続き2月14日〜15日にウィーンで行われた「Global Summit on Blockchain Technology in the Energy Sector」の会議に関して書いていきます。前回は、分散化という切り口からブロックチェーンのエネルギー分野への適用性を考えてみました。今回はより具体的に、現在行われているまたは計画中のプロジェクトの紹介を含め、ユースケースに関して考察していきます。   現在考えられるブロックチェーン技術のユースケースは100個以上 会議1日目の発表の中で、ブロックチェーン技術のエネルギー分野のユースケースは100個以上が特定されているという調査結果の紹介がありました。100個以上とは、驚きです。この約半数が、計測とデータ伝送・請求・自動化などプロセスに関するユースケース、残りの半数が電力取引などプラットフォームとしてのユースケースであるということでした。 あくまでこれらは現時点で考えられる可能性と認識しますが、実際に走っているプロジェクトはどのようなものがあるのでしょうか。会議2日目に多くの時間を割いて行われたスタートアップ企業の発表から、注目すべきなものをいくつか紹介したいと思います。   エネルギー×ブロックチェーン事例紹介 Power Ledger (オーストラリア) EcoChainという独自の許可制(Permissioned)ブロックチェーンを使い、電力P2P取引を試みているようです。電力会社と合意を締結し、10000個以上のスマートメータを用いた実証試験を今年行う予定。電力会社のシステムと共存するようなシステムを目指すようです。 LO3 Energy(米国) ニューヨークのブルックリンで太陽光発電設備を持つ家庭が同地域内で電力を取引できる実証実験を昨年からすでに開始しています。すでに実証実験を開始している点ではパイオニア的存在かもしれません。ニューヨーク大停電の写真とともに、太陽光発電を使った地域での電力融通が電源の信頼性を向上させるというメリットが紹介されました。 BTL(カナダ・英国) すでにトロント証券取引所ベンチャー市場に上場している企業で「interbit」というブロックチェーンのプラットフォームを展開しています。このプラットフォームを使って今年欧州と米国で実証実験を行うとの発表がありました。(会議終了後、オーストリアのWien […]

エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(2)

2017年2月23日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 前回に引き続き2月14日〜15日にウィーンで行われた「Global Summit on Blockchain Technology in the Energy Sector」の会議に関して書いていきます。1日目にイーサリアム財団のヴィタリック・ブテリンが登壇し、分散化(decentralization)についての議論を展開しました。その一部をご紹介します。 そもそもブロックチェーンはエネルギー分野に役立つのか? まず、分散化という広い概念をよりよく理解するために分散化する対象としての次の3つの側面から整理を試みました。 アーキテクチャーの分散(物理的システムの分散) 政治の分散(ブテリンは「政治」というややスケールの大きい単語を使いましたが、コントロールする主体と考えればよいかと思います) 論理の分散(インターフェイスやデータ構造) その上で、分散システムのメリットとして、次の4つを挙げました。 故障に対する耐性(中央集中システムの故障の例として2003年の米国・カナダの大停電) 攻撃に対する耐性(中央集中システムが攻撃された例としてアシュレイ・マディソンという不倫出会い系サイトのデータベースがハックされ、個人情報が漏洩した) 談合や独裁体制を形成することに対する耐性(独裁体制の例として、APIが更新されてツイッターのサードパーティー製アプリケーションの使用が制限された) 効率性の向上 ブテリンはエネルギー分野での応用については特に議論せず、分散システム一般の議論に終始していました。そして最後に、エネルギー分野で分散化が意味のあるものであれば、ブロックチェーンは役に立つと結論付けました。ブテリンが示した枠組みは「そもそもブロックチェーンはエネルギー分野で使えるのか」という問いを考えるのに有効かもしれません。現在の電力システムに当てはめて考えてみましょう。 電力システムについての分散化の対象となる3つの側面は簡単に書くと以下のようになっています。   1.アーキテクチャーの分散 中央の大型発電所から送配電網を通って末端の需要家に電気を届ける方式が主流であり、大部分です。この中央集権型の構造を大きく変えるには至っていませんが、分散型の発電設備も近年増加しています。 […]

東南アジア向け決済プラットフォーム「Omise」がイーサリアムベースのウォレットアプリ「Omise GO」の提供をアナウンス

2017年2月21日 BBC編集部 0

 タイ・バンコクに拠点を置き、東南アジア向けの決済プラットフォームを開発する Omise が、パリで行われた「European Ethereum Development Conference (EDCON)」にて、イーサリアムベースのウォレットアプリケーション「Omise GO」の提供を行うことをアナウンスした。公開は、2017年Q4を予定している。 日本人起業家による東南アジアのクレジット決済システム「Omise」  Omiseは、APIのみで簡単に実装が可能なクレジットカード決済システムを2013年6月にタイで提供を開始した。簡易なオンライン決済導入サービスが少なかったタイにおいて、順調に導入店舗およびサイトを増やしてきた実績がある。現在は、タイだけではなく、日本およびシンガポール、インドネシアでもマーケティング活動を行っている。  また、Wireと呼ばれるC2C向けの決済アプリも提供している。(国内だと、AnyPayやCoineyペイジが類似サービスだろう。)   イーサリアムを活用したアジアをつなぐ分散型M-Pesaへ  その同社が「アジアをつなぐ分散型のM-Pesaとなる」ことをスローガンに、イーサリアムベースのウォレットアプリケーションの提供を行うことをアナウンスした。M-Pesaとは、ケニアのモバイル送金サービスで、SMSを利用してモバイルマネーの送金依頼を行うことが可能だ。ケニアのモバイル端末利用者の約80%が利用するなど、広く浸透しているサービスだ。その後、M-Pesaのビットコイン版であるBitPesaも存在する。  手軽にモバイル端末同士でお金を送り合えるウォレットアプリケーションを提供することで、銀行口座を持たない何百万人の人々に恩恵をもたらしたいと考えているようだ。ブロックチェーンを利用する理由としては、ネットワーク自体がトラストレスな点のほか、その汎用性にある。同社のウォレットはオープンソースでの提供を行い、今後、様々な企業や政府が自由に利用を行うことを想定している。多くの事業者が、Omise Goを利用することで、自然と商圏が広がっていくというわけだ。  また、イーサリアムを利用する理由について、OmiseのアドバイザーでありイーサリアムのアドバイザーでもあるThomas Greco氏は、送金手数料を抑えることができる点と、モバイルマネーとの相互運用性が高い点をあげている。詳しい技術仕様などについては、今後の発表を待ちたい。  さらに同社は、Omise Goプラットフォームで生じた手数料収入の分配を受ける権利を、Omise GO (OMG)トークンとして販売(ICO)するようだ。  同社の強みとしてCEO Jun Hasegawa氏も述べている通り、すでに数多くの店舗に導入実績を持っている。そこにブロックチェーンおよび暗号通貨という、これまでの法定通貨やモバイルマネーの常識にとらわれない技術を組み合わせることで、独自ウォレットアプリを軸としたOmise経済圏を築くことができるかもしれない。今後の動向についても目が離せないプロジェクトとなりそうだ。 […]