エネルギー×ブロックチェーンのコンソーシアム「Energy Web Foundation」組成

今まで3回にわたり2月14日〜15日にオーストリア・ウィーンで行われた「Global Summit on Blockchain Technology in the Energy Sector」の会議に関して書いてきました。500人近くの参加者が集まった盛大な会議であったと書きましたが、それでは業界としてのまとまった取り組みはないのかと疑問に思った方もいらっしゃるかもしれません。実は、会議では重要なコンソーシアム組成の発表がありました。

 

エネルギー×ブロックチェーンのコンソーシアム「Energy Web Foundation」とは

そのコンソーシアムとは、Energy Web Foundation(以下「EWF」と略します。)です。EWFは米国のRocky Mountain Institute(以下「RMI」と略します)とオーストリアのGrid Singularity(以下「GSy」と略します)が設立メンバーです。

RMIと言えばエネルギーの世界ではよく知られている研究機関です。代表のAmory Lovins氏は1977年に著書の「ソフト・エネルギー・パス」の中で大型の電力設備を増やす代わりに小型の分散型電源、再生可能エネルギー、節電や省エネの需要側管理でエネルギーの需要を満たすことを提唱し、すぐれた先見性を発揮しました。日本でもよく使われるようになった「ネガワット(ネガティブの電力、すなわち電力需要を削減すること)」もLovins氏の造語です。

GSyはエネルギー+ブロックチェーンに特化したオーストリアのスタートアップ企業で、本会議の企画・運営も行いました。GSy単独でのプロジェクトというのは聞いたことありませんが、他企業のプロジェクトのパートナーとしてGSyが入っていることより手広く活動している印象があります。主要メンバーの中にはEthereumの専門家が何人もいるようです。

 

EWFは、何をするコンソーシアムなのか

EWFは非営利団体で、エネルギー分野でブロックチェーン技術のポテンシャルを解き放つという目的のもと設立され、以下の活動に注力するとのことです。

  • ユースケースの分析・研究・評価
  • エネルギー分野で使用できるブロックチェーンのオープンソースプラットフォームの開発
  • 業界エコシステムの育成
  • 啓蒙教育活動

ユースケース研究については、現時点でブロックチェーンをエネルギー分野でどう使っていけば最もその価値が発揮されるかが明らかでないため、ユースケースの研究や評価を通じて有用性の高い用途を見つけるのが狙いということです。世界各国で行われる実証実験と並行して、ユースケースの評価は行う価値が高い活動と考えます。

プラットフォームの開発に関しては、異なる組織が相互運用性がないブロックチェーンを作ってしまうと、後に複数のブロックチェーンを統合しようとしたときにできなくなるため、最初から共通のプラットフォームを開発しようという考えのようです。このへんは、金融業界のR3コンソーシアムが共通プラットフォームとしてCordaを開発したのと似ているようです。

EWFはまず10社と合意を締結し、活動を行っていくということでした。のちにコンソーシアムのメンバーは増やす予定ですが、最初は運営管理がしやすいように少数の企業と活動する方針です。2017年3月16日現在、加盟を表明している企業はすべて大手エネルギー企業で、フランスのengie(元GDFスエズ)、ドイツのTWL、オランダのStedin、英国のCentrica、東京電力とあと1社(社名非公表)の合計6社です。

 

EWFがエネルギー分野でのブロックチェーン導入を主導するか

それではEWFがエネルギー分野のブロックチェーンの標準を作り上げるかというと、まだ分からないと考えます。業界の中でも先進的な取り組みを見せているある企業の担当者と話したときには、EWFの趣旨は有意義と認めるものの、その企業はEWFより早く事業展開を行いたいためEWFには加盟しないと話していました。

ブロックチェーン業界のコンソーシアムでは、次の4つがその有用性の要因になると考えます。

1.投資のバレッジ

共同出資して開発を行い、成果物を共有することで投資のバレッジがどれだけあるかはコンソーシアム組成の重要な意義のひとつと考えます。

2.標準化・相互運用性の重要性

例えば、内外為替一元化コンソーシアムに加盟していない銀行同士でないとブロックチェーンを使った送金が行えないとなると、コンソーシアムへの加盟は必須になってくるでしょう。しかし、エネルギー分野でこれほど標準化や相互運用性が重要になる用途が開発されるかは現時点では何とも言えません。銀行間で送金するような応用は考えにくいため、一社で完結したアプリケーションが独立していくつも運用されるとなると標準化はそれほど重要ではないかもしれません。

3.共有する情報の質と量、情報へのアクセスのしやすさ

コンソーシアムのメンバー間で当然情報共有が起こると思いますが、その情報の質と量、また情報へのアクセスのしやすさが重要になってきます。一般的にはコンソーシアムのメンバー間のつながりがあれば共有する情報の質と量、情報へのアクセスとも向上すると考えます。例えば各社が実証実験を行い、その結果に関する知見を統合すると問題の抽出が効率的に行えるかもしれません。

4.スピード

コンソーシアムとしての意思決定を必要とする場面ではその意志決定のスピードも重要です。複数のメンバー企業が世界中に散らばっており、言語や文化も違うというのは無視できない要因だと考えます。協働の経験がない企業同士で意思決定を早めるメカニズムを確立することは重要となるでしょう。

EWFの成果は今後見ていくことになりますが、このようなコンソーシアムが組成されたということはエネルギーという分野がブロックチェーンの応用分野の中でも一大分野として育ちつつあると言えるのではないでしょうか。今後の動きに注目です。

2月14日〜15日オーストリア・ウィーンで行われた「Global Summit on Blockchain Technology in the Energy Sector」の全3回のレポートは、こちら。
エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(1)
エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(2)
エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(3)
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大串 康彦
About 大串 康彦 10 Articles
環境・エネルギー分野にてプラントエンジニアとして10年間勤務 。ごみ焼却プラントや燃料電池発電システムの開発等を担当。その後日本の企業を退職し、永住するつもりでカナダに移る。カナダの電力会社に入社しスマートグリッドの事業企画などを担当し、その後は個人事業主としてカナダの技術ベンチャー企業の事業開発支援を行う。2013年に東京に戻る。現在はエネルギー分野でのブロックチェーンを活用した新規事業の機会探索を行っている。記事のフィードバック、ご質問などはyasuhiko.ogushi@gmail.comまでお送りください。