次世代の「食の安全」を支えるのは、DNA解析技術とブロックチェーンである

その食品は本当に安全なのか?

世の中には数多くの食品がありますが、「この輸入牛肉に大腸菌は付着していないか?」「このビーガン向けの大豆パティは、本当に100%植物由来のパティなのか?」「”遺伝子組み換えでない”との表示がついているが、本当に遺伝子組み換えをしていないのか?」といったように、食品の提供者が安全性をうたっていたとしても、疑いの目をもって検証しなければ、その食品が本当に安全なのかどうか、わかりようがありません。このように食の安全性に疑いがある状況では、文字通り分子レベルの生物学的な検査を経て、本当に安全なのか確かめる必要があります。

DNAのデータが「食の安全」を守る

食品業界では、企業の提供する「食の安全」への信頼が一度でも損なわれてしまうと、ブランドイメージが大幅に下落してしまうため、このような問題を未然に防ぐことが何よりも重要です。近年に入り、食品のDNAシークエンシング(DNAを抽出して解析する作業)が容易になったことや、コンピュータ上で大量の情報を保管できるようになったことによって、「食の安全」の世界は新たな次元に突入しようとしています。

「食の安全」の最先端の現場では食品に含まれるDNAが解析され、その結果がデータベース化されています。このデータベースにより、どの食品にどのDNAが含まれているか(あるいはどの食品にはどのDNAが含まれていないか)が明確になりました。これによって、問題の発生からその原因の特定までが極めて容易になりました。例えば、ある患者が特有のDNAパターンをもつサルモネラ菌による中毒症状を訴えていた場合、そのサルモネラ菌がどの食品由来で体内に侵入したのか、直近の食事の履歴からあらゆる可能性を検証して、食材レベルで感染ルートをピンポイントで絞っていくことが可能になります。

食品に含まれるDNAの分析を行うスタートアップである、Clear Labsの共同創業者の一人であるMahni Ghorashi氏は、DNA解析について「(DNA解析のコストが低下したことにより)今まで解析してみようとすら考えなかった対象についても、私たちは積極的に解析にかけることができるようになった。」と述べています。またGhorashi氏は、FDA(アメリカ食品医薬品局)局長のEric Brown氏の言葉を引用し、近年のDNA解析技術の進歩について「まるで裏庭の望遠鏡から、ハッブル望遠鏡にアップグレードされたかのようだ。」と表現しました。

アメリカの国立ヒトゲノム研究所によると、2008年時点で1000万ドルだったヒトゲノムの解析費用は、現在わずか1000ドルまで低下しているとのことです。Ghorashi氏によると、Clear Labでは特定の1種類のDNA解析であれば、1サンプルあたりわずか10ドルでできるそうです。遺伝子組み換え食材混入の有無を確かめるスクリーニングテストでは、食品に含まれる全ての原材料のDNAを解析しなければならないため、数百ドルかかってしまうそうですが、それでも10、20年前と比較すると破格の値段で検査することができるようになりました。

DNAシークエンシングの課題

このようにDNAの解析にかかるコストは著しく低下しましたが、ひとつ大きな課題が残されています。それは食品のDNA解析に時間がかかってしまう、ということです。例えば、どのようなDNAが含まれているかが不明な食品では、分析に3~4日ほどかかってしまうそうです。新しい食材を導入する際には、安全性の検証が欠かせませんが、輸入食品のなかでも特に傷みやすい果物などは、輸入してからすぐに国内市場に出荷する必要があります。今後より高い精度で食の安全性を確保するためには、1日、あるいは数時間以内に食品に含まれるDNAの解析できるようにする必要があります。綿密な検査によって安全性が確保されているものの、遺伝子レベルの検査のスピードが大きく向上すれば、「食の安全」の分野にブレイクスルーが起きるでしょう。

ブロックチェーンで原因を見極める

ここまでは食品が市場に流通する前の段階において、どのように危険な食品を見抜き、被害の拡大を防ぐか?という視点でDNA解析技術について紹介してきました。ここからは、食品が流通した後に危険性が判明した場合、どのようにして被害の拡大を防ぐか?という視点に移ります。

実は、この食品が市場に流通した後の危機管理の解決策として、ブロックチェーン技術が期待されています。食品のサプライチェーンにブロックチェーンを組み込むことができれば、その食品がどんなルートを辿って運ばれてきたのか、複数の事業者にまたがって、改ざんできない分散型台帳上に記録できるようになります。実際に、アメリカの大手スーパー「Walmart(ウォルマート)」では、既にブロックチェーンの導入実験が始まっています。現在は輸入マンゴーと豚肉の2品目のサプライチェーン上でテストが行われているようです。

更にWalmartは、自社倉庫からお客様の自宅までドローンで荷物を宅配する構想を発表しています。このドローンによる宅配が実現すると、サプライチェーンの大元である生産者から末端である消費者の元まで、どれぐらいの時間をかけて、どんな状態(速度・温度など)で輸送したのか、詳細な記録を残すことができるようになります。従来のWalmartでは、消費者からのクレームで食品の問題が発覚した場合、その食品が辿ってきたルートの特定まで1週間かかっていたそうですが、ブロックチェーンの導入後は、わずか2.2秒で特定が可能になったそうです。このように、早期に流通経路と流通先を特定できるようになると、トラブル発覚後に迅速な初期対応をとることができるようになります。

 

2016年のFDAの発表によると、アメリカでは年間4800万人(アメリカ人全体のうち、およそ6人に1人)が食中毒にかかる言われています。そのうち12万8000人は重症化して入院することになり、さらにそのうちの3000人が亡くなってしまうそうです。このように多くの人々を悩ませている食中毒ですが、症状が軽度な場合、わざわざ食品の購入先に訴えを起こす人は少ないため、ほとんどの人々が症状を我慢するか、治療費を自己負担するなど泣き寝入りしてしまうそうです。「食の安全」が損なわれることによって、多大なる経済損失が発生しているのみならず、人命までもが失われています。このような現状に対して、DNA解析技術やブロックチェーンのようなテクノロジーによる問題解決に期待が高まります。

 

参考:https://www.fda.gov/food/resourcesforyou/consumers/ucm103263.htm

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BBC編集部
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