スマートコントラクトにおける法的課題

前回記事「現役弁護士によるスマートコントラクトの概観」に続き、スマートコントラクトの論点について説明します。今回は、論点整理的な記事となります。

スマートコントラクトの特徴(「ネット上の契約」との違い)

スマートコントラクトは、契約の締結と履行の双方又は一方が、コンピュータ・プログラムによって自動的に行われるものであると理解されています。「プログラム」、「自動的」といったキーワードで、「ネット上の契約」と区別されますが、この差を要素に分けてみると以下のように整理できます。

従来のネット契約 スマートコントラクト
締結場所 インターネット ソフトウェア/インターネット
締結意思 人の入力 自動 or 人の入力
契約言語 自然言語 プログラム or 自然言語
履行場所 現実世界 デジタル台帳 or 現実世界
履行方法 請求行為・法的手続 自動 or 請求行為・法的手続
ブロックチェーン 想定なし 活用を想定


プログラム言語で書かれた契約が自動的に成立し、自動的にブロックチェーン上で契約の履行が完了するのが、スマートコントラクトの典型像です。しかし、ネット契約と同じように、相互の意思確認に基づいて自然言語で締結され、契約履行の部分のみ自動的に実行されるものや、反対に自動的にプログラムコードで契約が成立し、契約履行はリアルな方法で行うものも、「スマートコントラクト」の範疇と考えられます。

具体的にどのようなタイプのスマートコントラクトから普及していくかは、現在全世界で実証実験等が行われており、その状況を注視していくことになります。

 

スマートプロパティ

スマートコントラクトと関連する概念に「スマートプロパティ」というものがあり、物の所有権などの権利の証明や公示を、電子的な方法で行うというアイデアです。ビットコインも、ビットコインの保有者がブロックチェーン上の記録で証明されているため、一種のスマートプロパティとして機能しています。

ブロックチェーンの改竄困難性という意味での信頼性や、中央集権的な管理から脱することによる利用者コスト(例えば、登録免許税など)の低減などが期待されます。

例えば、日本の法制度では、不動産登記簿が不動産の所有者や抵当権者の権利の証明手段であり、株式会社の株主名簿や株券が株主権の証明手段ですが、登記簿や株主名簿の代わりに、ブロックチェーンへの記録を証明手段にすることが考えられます。

仮に、株券や株主名簿という制度がなかったとしましょう。非上場会社の株式を、売買契約を結んで購入し、売買契約書をデータ化・暗号化してブロックチェーンに記録したら、記録された時点でその人が株式を買っていたことの一応の証明として機能します。これは、公証役場に書類を持っていくと、その日にその書類が存在した証明として確定日付の印を押してもらえる、確定日付の制度に似ています。ブロックチェーンは「公証」の制度としても活用できると言われますが、スマートプロパティの初歩的な形態としては、このような公証機能を利用することが考えられます。

※確定日付は、ある書類がその日において存在しており、その後に作成されたものでないことの証明として機能しますが、その書類の真正(偽造されたものでないこと)まで証明するものではありません。上記のブロックチェーンの例でも、売買契約書が真正であることまでブロックチェーンは証明していません。

更に、会社の設立からの株式の所有者の変遷が、氏名、株数等の情報を含めて全てブロックチェーン上に記録できれば、契約書のデータをアップしなくても、ビットコインと同じように売主側で必要な権利移転情報の入力を行い、それがノードに承認されることで、権利の証明と公示の機能を果たすことになります。これに加えて、株式売買契約の内容がプログラム化され、代金の支払データが確認できれば自動的に権利移転情報がアップされるように契約プログラムとブロックチェーンをコネクトできれば、立派な「スマートコントラクト」になります。上の図にあるスマートコントラクトの「履行場所」「履行方法」がブロックチェーン上での自動的な権利移転になるイメージです。

このようにスマートプロパティは、事実や権利の証明として「スマートプロパティ」単体としても機能しうる反面、スマートコントラクトの一部としての役割も担うことになります。

 

スマートコントラクトの課題

契約コスト低減や消費者利便性に寄与すると期待されているスマートコントラクトですが、実際の普及にはクリアすべき課題が多くあると言われています。内外で色々な議論がありますが、主な問題は以下のように整理できます。

(1) プログラムによる契約内容の正確、適切な表現の可否

(2) 契約条件の内容となっている現実世界のインシデントの認知、取り込みの方法

(3) 当事者の正確な契約内容の理解

(4) 柔軟な契約条件変更の可否

(5) 紛争時の証拠力

(6) 取引内容の秘密保持

上記のうち多くは、プログラム(コード)を用いることに関連する問題ですが、(6)の点はブロックチェーンの有する公開台帳の性格に内在する問題として取り上げられています。上記の問題点について、次回以降具体的に検討していきたいと思います。

 

執筆者

弁護士 林 賢治 (k.hayashi@azx.co.jp)

弁護士 池田宣大 (n.ikeda@azx.co.jp)
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BBC編集部
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