ブロックチェーンで電気の少額決済(マイクロペイメント)は普及するか?

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。

ブロックチェーンの特徴の一つとして「取引コストが低い」というものがあります。これは、ブロックチェーンにより仲介者なしの直接取引が可能になり、従来手数料を徴収していた仲介者が不要になることに起因するところが大きいです。取引コストが安くなれば少額の送金や現金以外での通貨の支払いにもメリットが出るし、デジタルコンテンツをはじめとする少額決済(マイクロペイメント)も意味があるものになるでしょう。

それでは、電気はどうでしょうか。本記事では電気の少額決済とは果たして意味があるのか、そしてブロックチェーンにより電気の少額決済は普及する可能性があるのかを考察してみることにします。

取引コストが低くなると少額決済のインセンティブが生まれる

まず、取引コストが低くなることのメリットやインパクトについて考えてみます。最初のケースとして金融機関の送金手数料を考えます。仮定として、金融機関が徴収する送金手数料は取引コストを反映しているとします。

仮にある金融機関の3万円以下の送金手数料が300円だったとします。3万円送金するときの手数料は300円となり、現状の商習慣からは妥当でしょう。しかし500円送金して300円の手数料を徴収されたのでは、手数料は送金額の60%となり、とても高い印象を与えるかもしれません。結果、利用者は送金を諦めてもっと安い別の方法を探すかもしれません。

仮に、金融機関の取引コストが下がり、送金手数料が送金額の1%になったとします。今度は500円送金するときの手数料は5円です。この額では利用者は喜んで送金を行う可能性が高いでしょう。つまり、取引コストの低下により今まで行われなかった少額の送金が行われるようになります。

同様な原理はクレジットカードの手数料などにも当てはまります。客単価があまり高くない飲食店などで「クレジットカードでの支払いは○○円以上のみ対応します」のようなルールを見ますが、これは店側が払う少額決済のときのクレジットカードの手数料が割高となり、利益を損ねるためと推測します。取引コストの低下により、この問題は解決され、店は少額でもクレジットカードの支払いに対応できるようになるでしょう。

「1記事50円」でも商売が成立

次に、送金ではなくデジタルコンテンツの販売を考えてみます。取引コストが低くなると、今まではまとまった単位でしか売っていなかった記事、音楽、写真などを少額で切り売りして販売することが可能になります。上記の例と同様、少額決済が経済的に意味のあるものとなり、ニーズがあれば販売が推進されると予測します。

この場合は、売り手と買い手の両者にメリットが生じます。買い手は、今まで特定のコンテンツにアクセスするためには、コンテンツのまとまり(音楽のアルバムや書籍一冊)や毎月定額の購読料(サブスクリプション)を購入するしかありませんでした。

しかし、この買い手はコンテンツの一部分にしか興味がなく、それを入手するためにコンテンツのまとまりや購読を購入することは高額で割に合わないと考えていました。欲しかったコンテンツのみを少額で購入できるのですから嬉しいはずです。

売り手は、今までコンテンツの塊やサブスクリプションの販売方法では獲得できなかった顧客をコンテンツの切り売りをすることで獲得することができ、売上を増やすことができます。

まとめますと、上記のケースに共通するインパクトとしては、取引コストが安くなることにより、今まで経済的に意味を見いだすのが難しかった少額決済が経済的に意味のあるものとなり、推進されるということです。次に電気の場合について考えてみます。

電気の少額決済はローミングとともに使われる

通常、電気は使用場所を決め電力会社と契約し、基本料金に加え使った分だけの従量料金を毎月支払います。契約場所の家や会社で使用する分には通常少額決済という概念は当てはまりません。従って、契約場所以外で少量の電気を使うときを考えましょう。この場合は認証を伴い、携帯電話のローミングと似たようなイメージになります。

例えば、電気自動車のオーナーが自宅以外で充電する場合、カフェでノートPCを使用する場合などでしょう。法人であれば、上記個人の例に加え、自動販売機等の機材を借りた土地に設置する場合などがあるかもしれません。今回は個人の例で考えてみます。

自宅以外で電気自動車を充電する場合、現状では以下の選択肢があります。

1.商用の充電スタンドで毎分あたり○円(その他月会費や登録手数料が必要)で充電サービスを利用する

2.ショッピングセンターなどがサービスの一環として駐車場に設置している充電スタンドで無料で充電する

3.自動車メーカーが電気自動車オーナーに対し毎月定額または無料で充電できるシステムに加入し、スタンドから充電する

4.訪問先から電源を借りて充電する。何もしなければ電気代は訪問先負担となる。

このうち、1.2.3.は商用サービスとして成立しており、新たな少額決済のメリットはないかもしれません。最もメリットが生じるのは4.の場合でしょう。電気自動車の充電のために一回コンセントを貸したら電気代が跳ね上がることはありませんが、「電気のローミング」が可能になることにより、安心してコンセントを貸せるコンセントのオーナーが増え、電気自動車オーナーの利便性が増すことが期待できます。

参考まで、2時間充電したときの電気料金を概算してみます。日産自動車によると30kWhバッテリー内蔵の電気自動車リーフの充電時間は200V電源使用で約11時間(充電レベル0→80%)かかるそうです。仮に電気料金を25円/kWhとすると2時間の充電にかかるコストは、25円/kWh x 30kWh x 80% x 2時間 ÷ 11時間 = 109円となります。

同様に、消費電力が30WのノートPCの場合は2時間の使用で5円以下となります。このレベルになってきますと、「カフェでノートPCを使う客に対して使用量の分だけ少額決済する」というビジネスモデルでメリットが出せるかどうかは疑問で、店がサービスの一環としてコンセントを使用可能にする、または公衆電源espotのような方法で課金した方が意味があると考えます。

電気自動車に戻ります。ドイツの大手電力会社RWEの子会社のinnogyという会社とブロックチェーン技術を提供するSlock.itという会社が昨年「Blockcharge」という個人間充電を可能にするシステムを開発しました。電気自動車のオーナーがスマートプラグを購入し、予め登録した街中のコンセントにプラグを差し込んで電気自動車の充電が行えるというシステムです。

ブロックチェーン上に充電情報(利用者、日時、充電量、料金)を記録することにより、透明性の高い取引が実現可能です。上記に示した通り一件一件の取引金額はせいぜい数百円程度であり、少額決済となることが予想されます。

https://www.youtube.com/watch?v=0A0LqJ9oYNgより

また、ブロックチェーンの使用は確認できていませんが、トヨタ自動車が超小型モビリティ「i-Road」のために電気をシェアするための認証型コンセント「Smile Lock」を開発しました。使い方は上記Blockchargeと同様、i-Roadの使用者がSmile Lockを持ち、登録済のコンセントに差してi-Roadの充電を行うようです。新たに充電スタンドを設置することなく、i-Roadの使用者の利便性を増すことができます。

http://openroad-project.com/prototyping/smile-lockより

まとめ

電気の少額決済は、契約場所以外での使用(ローミング)の際に認証技術とともに役に立つ可能性があります。しかしその効果は送金やデジタルコンテンツの場合に比べ間接的かもしれません。すなわち、少額決済が事業者の売上を増やす決定的な手段となるというよりは、ローミングと少額決済が可能になることによりユーザーの利便性が増したり、事業者のサービスの幅が広がるということです。

また、電気の少額決済そのもののメリットは莫大ではないようにも見えますが、他のサービスとの組み合わせや、将来普及するワイヤレス給電技術との組み合わせの利用により、予想以上のメリットを作り出せるかもしれません。

上記で紹介したBlockchargeはShare & Chargeと名前を変えて進化し、将来は有料道路、駐車場、カーシェアリングの支払いなどモビリティ関連の支払いに使用できるシステムを目指しています。ワイヤレス給電が普及したときには道路に埋め込まれた充電器でこまめに充電しながら電気自動車を走らせるというスタイルが主流になるかもしれません。そのときは電気の少額決済がもっと意味のあるものになっているかもしれません。

 

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大串 康彦
About 大串 康彦 10 Articles
環境・エネルギー分野にてプラントエンジニアとして10年間勤務 。ごみ焼却プラントや燃料電池発電システムの開発等を担当。その後日本の企業を退職し、永住するつもりでカナダに移る。カナダの電力会社に入社しスマートグリッドの事業企画などを担当し、その後は個人事業主としてカナダの技術ベンチャー企業の事業開発支援を行う。2013年に東京に戻る。現在はエネルギー分野でのブロックチェーンを活用した新規事業の機会探索を行っている。記事のフィードバック、ご質問などはyasuhiko.ogushi@gmail.comまでお送りください。