再生可能エネルギー・未来の電力システムとブロックチェーン

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。

以前に公開しました「ブロックチェーンは中央集中型の電力システムを変えられるか」および「エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(2)」では分散型システムという観点から電力システムにおけるブロックチェーンの活用可能性を議論しました。今回は、市場経済型をキーワードにしてさらに議論を深めてゆきます。

 

未来の電力システムは市場経済型

日本では2012年の固定価格買取制度開始後急激に太陽光発電が普及しましたが、2016年11月時点の経済産業省のデータを基に計算すると太陽光発電と風力発電を合わせても日本の全発電量の5%以下(太陽光3.6%・風力0.6%)です。一方、国際エネルギー機関(IEA)によると、デンマークでは太陽光発電と風力発電の発電量が全発電量の50%超、アイルランド、ポルトガル、スペイン、ドイツでは20-25%と日本より大幅に高い割合で普及が進んでいます。

国際エネルギー機関の報告書によると、電力系統が大量の再生可能エネルギーを受け入れるための3つの柱の一つとして、電力システムと市場と運用の改善が挙げられています。従来の電力システムは計画経済的であり、過去のデータや気象データから未来の需要を予測し、供給計画を立てるという方法が使われていました。しかし出力が絶えず変動する再生可能エネルギーの発電をうまくとり入れながらシステムを運用するためにはよりリアルタイムに近い市場経済型の運用に移行することの必要性が示唆されています。

上記の欧州各国では電力供給の信頼性を大きく損なうことなしに変動電源である再生可能エネルギー大量普及を達成しており、電力システムの運用も市場経済型に近づく取り組みが見られます。例えばアイルランドでは負荷配分の時間幅を10分未満に短縮し、リアルタイムに近い需給バランスの運用を行っています。また、卸売市場における入札に基づく負荷配分の最終更新は当該時間前30分未満となっており、柔軟性の高い市場取引を確保しています。

日本は2003年に日本卸電力取引所が設立し取引が行われてきましたが、当時の日本は地域独占・垂直統合型の電力システムであり、変動電源の再生可能エネルギーの普及率も低かったため、このようなリアルタイムに近い市場経済型のシステム運用の必要性は強くありませんでした。現在進行中の電力システム改革の最終段階で2020年までに現在の垂直統合型の電力会社から発電と送配電が法的に分離した構造分離型に移行しようとしていますが、この改革の中で市場経済型に近づくことができるのではないかと考えます。

 

市場経済型取引プラットフォームとしてのブロックチェーン

前置きが長くなりましたが、上述のような変動電源である再生可能エネルギーが多く系統に接続した電力システムの姿を以下の図にまとめます。これを達成するためには電力系統制御や需要管理に関わる電気工学を基にした技術も必要になってきますが、取引のプラットフォームとしてはブロックチェーンが有用と考えます。すなわち、その他のハードウェアや仕組みが整っていればブロックチェーンにより市場経済型のシステムへの移行を加速することができます。

ブロックチェーンが優位性を発揮すると考える理由は以下です。このうち、市場経済型・取引主体の運用に大きく関連する理由は2)と3)です。

  1. 分散型エネルギーシステムの物理的アーキテクチャーにより適合している。現状は一般送配電事業者と小売事業者が電力使用量の情報を中央集中的に処理しているが、ブロックチェーンを使えば中間業者を入れずに当事者間で取引が可能。
  2. 異なるタイプの市場参加者間(従来の発電、分散型発電、デマンドレスポンス参加者、消費者など)で、中央の権威に頼らず「トラストレス」な信頼を確保した取引が実現可能。
  3. 中央の卸売市場だけでなく、地域小売市場などきめ細かい市場取引が可能である。これにより託送料金を一律でなく距離に応じた課金にするなど公正な料金形態も実現しやすい。
  4. 信頼性の高い取引により地域主体で地産地消を推進するエネルギーシステムの構築が容易である。例えば自治体や地域の事業者が主体となって電力事業を進めやすい。ある地域をマイクログリッドにしてしまえば電力会社との契約は一つで、その中での取引は自由に可能。
  5. 再生可能エネルギーの価値をトークン化、証書化し流通されるのが容易。

経済産業省が2015年に発表した日本の2030年の導入目標は太陽光発電が日本の発電量全体の7%、風力発電が同1.7%と、上記欧州の導入実績値と比較しても控えめな数字になっていますが、太陽光発電はコストが下がり続けていることからこれからも導入は進むと予測されます。今までは「メガソーラー」と呼ばれる大型の太陽光発電所の建設が進みましたが、今後は買取価格が下がるため、大型の発電所よりも住宅や事業所の屋根に設置して発電した電力を自家消費し、余剰分を売電するスタイルが有利になると考えます。多くの分散型電源が接続された電力システムはすでに現実のものであり、今後も推進されるでしょう。

今までブロックチェーンのユースケースを調査し、電力の個人間取引やマイクロペイメントを見てきましたが、これらは始まりであり、長期的には電力の取引部分を担う中核技術として発展する可能性が大きいと感じます。

 

まとめ

電力システムの大きな流れとして中央集中型・一方向型から分散型・ネットワーク型への移行があります。これは、安価な太陽光発電・蓄電池などの技術の普及により大きく推進され、この流れは不可避だと考えます。また、今年度に創設されたネガワット(節電)取引市場、経済産業省が昨年度から実証事業として行っているバーチャルパワープラント(需要や蓄電池の集約・制御技術を使った技術)など、需要を集約化・能動化することによる電力システムの運用手法も普及し、トップダウンで発電することから送配電ネットワークの運用へ重要性の移行が進んでいます。

一方、出力が絶えず変動する太陽光発電・風力発電の普及は今後も続き、さらに多くの再生可能エネルギーが系統に接続されます。今までの計画経済的な電力システムでは大量の再生可能エネルギーを取り込むことは難しく、市場経済型のシステムを導入し、価格シグナルを利用することにより需給バランス確保をはじめとする電力システムの運用を行う必要があります。

市場経済型システムを言い換えると、取引主体のシステムとも言えます。従来型発電、クリーンな付加価値を持つ再生可能エネルギー発電、需要を削減して需給バランス確保に貢献するデマンドレスポンス、ネットワーク使用量を徴収する送配電事業者など多様なプレイヤーが地域レベルで取引を行うことにより運用される電力システムに移行するということです。

ブロックチェーンはこのような取引の明確化や正真性の確保に貢献し、中間業者なしに当事者間での取引を可能にする取引プラットフォームの核となるテクノロジーになるのではないかと考えます。但し、ブロックチェーンは万能ではなく、再生可能エネルギーの大量導入や需要管理には従来の電気工学を基にした技術の導入も不可欠と考えます。

電力会社が億単位で投資をした基幹システムをブロックチェーンを使用したシステムに置き換えるというのは現実的ではないかもしれません。ブロックチェーンが効果を発揮しやすい部分から順次導入する方法があれば望ましいです。例えば、再生可能エネルギーの証書化であれば全体を置き換えることなくできるかもしれません。そのような方法の探索が行われるべきと考えます。

 

電力・エネルギーとブロックチェーンというテーマを何ヶ月かに渡って考えてきました。まだ気がついていないことや思考が足りない部分もあるかもしれません。ご意見、ご感想などありましたら是非、yasuhiko.ogushi@gmail.comまでお送りください。

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大串 康彦
About 大串 康彦 10 Articles
環境・エネルギー分野にてプラントエンジニアとして10年間勤務 。ごみ焼却プラントや燃料電池発電システムの開発等を担当。その後日本の企業を退職し、永住するつもりでカナダに移る。カナダの電力会社に入社しスマートグリッドの事業企画などを担当し、その後は個人事業主としてカナダの技術ベンチャー企業の事業開発支援を行う。2013年に東京に戻る。現在はエネルギー分野でのブロックチェーンを活用した新規事業の機会探索を行っている。記事のフィードバック、ご質問などはyasuhiko.ogushi@gmail.comまでお送りください。