再生可能エネルギー・未来の電力システムとブロックチェーン

2017年5月2日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 以前に公開しました「ブロックチェーンは中央集中型の電力システムを変えられるか」および「エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(2)」では分散型システムという観点から電力システムにおけるブロックチェーンの活用可能性を議論しました。今回は、市場経済型をキーワードにしてさらに議論を深めてゆきます。   未来の電力システムは市場経済型 日本では2012年の固定価格買取制度開始後急激に太陽光発電が普及しましたが、2016年11月時点の経済産業省のデータを基に計算すると太陽光発電と風力発電を合わせても日本の全発電量の5%以下(太陽光3.6%・風力0.6%)です。一方、国際エネルギー機関(IEA)によると、デンマークでは太陽光発電と風力発電の発電量が全発電量の50%超、アイルランド、ポルトガル、スペイン、ドイツでは20-25%と日本より大幅に高い割合で普及が進んでいます。 国際エネルギー機関の報告書によると、電力系統が大量の再生可能エネルギーを受け入れるための3つの柱の一つとして、電力システムと市場と運用の改善が挙げられています。従来の電力システムは計画経済的であり、過去のデータや気象データから未来の需要を予測し、供給計画を立てるという方法が使われていました。しかし出力が絶えず変動する再生可能エネルギーの発電をうまくとり入れながらシステムを運用するためにはよりリアルタイムに近い市場経済型の運用に移行することの必要性が示唆されています。 上記の欧州各国では電力供給の信頼性を大きく損なうことなしに変動電源である再生可能エネルギー大量普及を達成しており、電力システムの運用も市場経済型に近づく取り組みが見られます。例えばアイルランドでは負荷配分の時間幅を10分未満に短縮し、リアルタイムに近い需給バランスの運用を行っています。また、卸売市場における入札に基づく負荷配分の最終更新は当該時間前30分未満となっており、柔軟性の高い市場取引を確保しています。 日本は2003年に日本卸電力取引所が設立し取引が行われてきましたが、当時の日本は地域独占・垂直統合型の電力システムであり、変動電源の再生可能エネルギーの普及率も低かったため、このようなリアルタイムに近い市場経済型のシステム運用の必要性は強くありませんでした。現在進行中の電力システム改革の最終段階で2020年までに現在の垂直統合型の電力会社から発電と送配電が法的に分離した構造分離型に移行しようとしていますが、この改革の中で市場経済型に近づくことができるのではないかと考えます。   市場経済型取引プラットフォームとしてのブロックチェーン 前置きが長くなりましたが、上述のような変動電源である再生可能エネルギーが多く系統に接続した電力システムの姿を以下の図にまとめます。これを達成するためには電力系統制御や需要管理に関わる電気工学を基にした技術も必要になってきますが、取引のプラットフォームとしてはブロックチェーンが有用と考えます。すなわち、その他のハードウェアや仕組みが整っていればブロックチェーンにより市場経済型のシステムへの移行を加速することができます。 ブロックチェーンが優位性を発揮すると考える理由は以下です。このうち、市場経済型・取引主体の運用に大きく関連する理由は2)と3)です。 分散型エネルギーシステムの物理的アーキテクチャーにより適合している。現状は一般送配電事業者と小売事業者が電力使用量の情報を中央集中的に処理しているが、ブロックチェーンを使えば中間業者を入れずに当事者間で取引が可能。 異なるタイプの市場参加者間(従来の発電、分散型発電、デマンドレスポンス参加者、消費者など)で、中央の権威に頼らず「トラストレス」な信頼を確保した取引が実現可能。 中央の卸売市場だけでなく、地域小売市場などきめ細かい市場取引が可能である。これにより託送料金を一律でなく距離に応じた課金にするなど公正な料金形態も実現しやすい。 信頼性の高い取引により地域主体で地産地消を推進するエネルギーシステムの構築が容易である。例えば自治体や地域の事業者が主体となって電力事業を進めやすい。ある地域をマイクログリッドにしてしまえば電力会社との契約は一つで、その中での取引は自由に可能。 再生可能エネルギーの価値をトークン化、証書化し流通されるのが容易。 経済産業省が2015年に発表した日本の2030年の導入目標は太陽光発電が日本の発電量全体の7%、風力発電が同1.7%と、上記欧州の導入実績値と比較しても控えめな数字になっていますが、太陽光発電はコストが下がり続けていることからこれからも導入は進むと予測されます。今までは「メガソーラー」と呼ばれる大型の太陽光発電所の建設が進みましたが、今後は買取価格が下がるため、大型の発電所よりも住宅や事業所の屋根に設置して発電した電力を自家消費し、余剰分を売電するスタイルが有利になると考えます。多くの分散型電源が接続された電力システムはすでに現実のものであり、今後も推進されるでしょう。 今までブロックチェーンのユースケースを調査し、電力の個人間取引やマイクロペイメントを見てきましたが、これらは始まりであり、長期的には電力の取引部分を担う中核技術として発展する可能性が大きいと感じます。   まとめ 電力システムの大きな流れとして中央集中型・一方向型から分散型・ネットワーク型への移行があります。これは、安価な太陽光発電・蓄電池などの技術の普及により大きく推進され、この流れは不可避だと考えます。また、今年度に創設されたネガワット(節電)取引市場、経済産業省が昨年度から実証事業として行っているバーチャルパワープラント(需要や蓄電池の集約・制御技術を使った技術)など、需要を集約化・能動化することによる電力システムの運用手法も普及し、トップダウンで発電することから送配電ネットワークの運用へ重要性の移行が進んでいます。 一方、出力が絶えず変動する太陽光発電・風力発電の普及は今後も続き、さらに多くの再生可能エネルギーが系統に接続されます。今までの計画経済的な電力システムでは大量の再生可能エネルギーを取り込むことは難しく、市場経済型のシステムを導入し、価格シグナルを利用することにより需給バランス確保をはじめとする電力システムの運用を行う必要があります。 市場経済型システムを言い換えると、取引主体のシステムとも言えます。従来型発電、クリーンな付加価値を持つ再生可能エネルギー発電、需要を削減して需給バランス確保に貢献するデマンドレスポンス、ネットワーク使用量を徴収する送配電事業者など多様なプレイヤーが地域レベルで取引を行うことにより運用される電力システムに移行するということです。 ブロックチェーンはこのような取引の明確化や正真性の確保に貢献し、中間業者なしに当事者間での取引を可能にする取引プラットフォームの核となるテクノロジーになるのではないかと考えます。但し、ブロックチェーンは万能ではなく、再生可能エネルギーの大量導入や需要管理には従来の電気工学を基にした技術の導入も不可欠と考えます。 […]

エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(3)

2017年3月7日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 前回・前前回に引き続き2月14日〜15日にウィーンで行われた「Global Summit on Blockchain Technology in the Energy Sector」の会議に関して書いていきます。前回は、分散化という切り口からブロックチェーンのエネルギー分野への適用性を考えてみました。今回はより具体的に、現在行われているまたは計画中のプロジェクトの紹介を含め、ユースケースに関して考察していきます。   現在考えられるブロックチェーン技術のユースケースは100個以上 会議1日目の発表の中で、ブロックチェーン技術のエネルギー分野のユースケースは100個以上が特定されているという調査結果の紹介がありました。100個以上とは、驚きです。この約半数が、計測とデータ伝送・請求・自動化などプロセスに関するユースケース、残りの半数が電力取引などプラットフォームとしてのユースケースであるということでした。 あくまでこれらは現時点で考えられる可能性と認識しますが、実際に走っているプロジェクトはどのようなものがあるのでしょうか。会議2日目に多くの時間を割いて行われたスタートアップ企業の発表から、注目すべきなものをいくつか紹介したいと思います。   エネルギー×ブロックチェーン事例紹介 Power Ledger (オーストラリア) EcoChainという独自の許可制(Permissioned)ブロックチェーンを使い、電力P2P取引を試みているようです。電力会社と合意を締結し、10000個以上のスマートメータを用いた実証試験を今年行う予定。電力会社のシステムと共存するようなシステムを目指すようです。 LO3 Energy(米国) ニューヨークのブルックリンで太陽光発電設備を持つ家庭が同地域内で電力を取引できる実証実験を昨年からすでに開始しています。すでに実証実験を開始している点ではパイオニア的存在かもしれません。ニューヨーク大停電の写真とともに、太陽光発電を使った地域での電力融通が電源の信頼性を向上させるというメリットが紹介されました。 BTL(カナダ・英国) すでにトロント証券取引所ベンチャー市場に上場している企業で「interbit」というブロックチェーンのプラットフォームを展開しています。このプラットフォームを使って今年欧州と米国で実証実験を行うとの発表がありました。(会議終了後、オーストリアのWien […]

エネルギー分野のブロックチェーン最新状況(2)

2017年2月23日 大串 康彦 0

※ブロックチェーン+エネルギーに関する大串の最新の意見(2017年10月以降)については、Mediumを参照願います。 前回に引き続き2月14日〜15日にウィーンで行われた「Global Summit on Blockchain Technology in the Energy Sector」の会議に関して書いていきます。1日目にイーサリアム財団のヴィタリック・ブテリンが登壇し、分散化(decentralization)についての議論を展開しました。その一部をご紹介します。 そもそもブロックチェーンはエネルギー分野に役立つのか? まず、分散化という広い概念をよりよく理解するために分散化する対象としての次の3つの側面から整理を試みました。 アーキテクチャーの分散(物理的システムの分散) 政治の分散(ブテリンは「政治」というややスケールの大きい単語を使いましたが、コントロールする主体と考えればよいかと思います) 論理の分散(インターフェイスやデータ構造) その上で、分散システムのメリットとして、次の4つを挙げました。 故障に対する耐性(中央集中システムの故障の例として2003年の米国・カナダの大停電) 攻撃に対する耐性(中央集中システムが攻撃された例としてアシュレイ・マディソンという不倫出会い系サイトのデータベースがハックされ、個人情報が漏洩した) 談合や独裁体制を形成することに対する耐性(独裁体制の例として、APIが更新されてツイッターのサードパーティー製アプリケーションの使用が制限された) 効率性の向上 ブテリンはエネルギー分野での応用については特に議論せず、分散システム一般の議論に終始していました。そして最後に、エネルギー分野で分散化が意味のあるものであれば、ブロックチェーンは役に立つと結論付けました。ブテリンが示した枠組みは「そもそもブロックチェーンはエネルギー分野で使えるのか」という問いを考えるのに有効かもしれません。現在の電力システムに当てはめて考えてみましょう。 電力システムについての分散化の対象となる3つの側面は簡単に書くと以下のようになっています。   1.アーキテクチャーの分散 中央の大型発電所から送配電網を通って末端の需要家に電気を届ける方式が主流であり、大部分です。この中央集権型の構造を大きく変えるには至っていませんが、分散型の発電設備も近年増加しています。 […]