ビットコインの分裂騒動とその問題の本質に迫る

 

ビットコインのスケーラビリティ問題を巡るビットコイン分裂の危機はひとまず回避され収束に向かっていると言われています。しかし、ビットコインをはじめとする暗号通貨(仮想通貨)には、今後も同様の問題が起きる可能性があります。分裂の危機が生じた原因から今に至るまでの流れを踏まえ、現在のビットコインの状況および、今回の分裂騒動におけるを考え、暗号通貨の本質的な課題を見て行きましょう。

 

ビットコインのスケーラビリティ問題とは?

ビットコイン分裂問題の発端は、ビットコインの「スケーラビリティ問題」と呼ばれるものです。ビットコインでは一つのブロックに約10分間に起きた世界中の取引をまとめて記録していますが、ブロックには1MBという制限があるため、それを超える取引を記録することができません。そのためブロックに入り切らなかったトランザクションの遅延や優先的にブロックへ取引を入れるために手数料を高く支払う必要が生じてしまうため、ビットコインが多くの人へ浸透し取引量が拡大するにつれて問題化してきました。

 

SegWitの提案からBitcoin Unlimitedとの対立-分裂危機

ビットコインにおいてスケーラビリティ問題によるデメリットが顕著になる前から、ビットコイン開発の中心となっている少数のコア開発者達を中心としてBIP(Bitcoin Improvement Proposals)と呼ばれる提案がなされてきました。当初コア開発者によって提案されたのがBIP141の「SegWit」と呼ばれるソフトフォークをもとにしたオフチェーンスケーリング提案でした。

一方でSegWitの提案に至るまでの非公開会合など不透明な意思決定に対する反発が生まれたほか、SegWitによってオフチェーン取引が実現されるとマイニング報酬の減少に繋がるとして、マイナーを中心としてSegWitを支持しない層が一定数を占めていました。このようなマイナーを中心とするオンチェーンスケーリング派がハードフォークによるブロックサイズ上限の撤廃を主張する「Bitcoin Unlimited」を提唱し、対立を深めていました。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

「ビットコイン分裂の危機は、どうして生まれたのか?Bitcoin CoreとBitcoin Unlimited」

このようにコア開発者とマイナーという対立構造が生じたことで、ビットコインコミュニティはいわば二つに分裂した状況でした。しかしBitcoin Unlimitedの採用する突発的なコンセンサスの危険性やそもそもの開発能力に疑念が呈されたこと、そして2017年3月18日には世界の大手取引所19社が合同で「Bitcoin Unlimitedのハードフォークが実行された場合、ビットコイン(BTC)とは異なる通貨(BTU)として扱う」との声明を発表したことなどから、Bitcoin Unlimitedの支持勢力は次第に発言力を失っていきました。

 

遅々として進まぬSegWit有効化-UASF&UAHF

SegWitが提案されたBIP141においては、「マイナーの95%の承認によってSegWitが有効化される」とされていました。しかしながら前項で述べたように利害の不一致やBitcoin Unlimitedの台頭などでマイナー間で支持が得られず、2016年11月に投票が始まってから長らく有効化(アクティベート)に至りませんでした。

SegWit実装が遅々として進まない一方でBitcoin Unlimitedとの分裂の危機が迫るなか、SegWit採用を促すべく2017年3月12日にBIP148を通じて「UASF」が提案されました。UASFとはUser-Activated Soft Fork、つまりユーザー主導のソフトフォークです。これは、「2017年8月1日になったらマイナーの95%の承認がなくともSegWitのソフトフォークを強制的に実行する」というものです。これによって、8月1日以降はSegWitを有効化していないブロックは承認されなくなります。これはマイナーの利害によってSegWitの有効化が進まない状況に対し、「SegWitを有効化しないと正当なブロックとして承認しない」というユーザー側からの働きかけによってSegwitを有効化しようという動きなのですが、8月1日までにマイナー側でSegWitが有効化されない場合には意図せずチェーンの分岐が生じるというリスクを伴います。

このBIP148に基づくUASFの提案に対して、2017年4月には大手マイニングプールのBitmainはUAHF(User-Activated Hard Fork)を発表しました。8月1日にUASFが実行された場合、Bitmainが意図的にハードフォークを実行しビットコインの分裂を図るというものです。ユーザー主導による半ば強制的なSegWitの有効化に対抗する形で出されたこの声明は、SegWit賛成派と反対派との脅し合いにも近いと言える状況でした。このようにSegWitの有効化を巡る動きは混沌を極め、ビットコインが意図しない形で分裂してしまう危険性が拭い去れない状況が続いていました。

 

SegWit2X提案による分裂回避

UASFとUAHFという分裂の危険が迫るなか、2017年5月23日にDCG(Degital Currency Group)からBIP91を通じ「SegWit2X」の提案がなされました。これは、「SegWit有効化に必要なマイナーの承認を95%から80%に引き下げる代わりに、ビットコインのブロックサイズ上限を2MBへと拡大するハードフォークを6カ月後の11月に実行する」というものです。

この提案はオンチェーンスケーリング派とオフチェーンスケーリング派の折衷案として広く受け入れられました。SegWitの導入へのハードルを下げるだけでなくブロックサイズ拡張のハードフォークをも織り込んでおり、2017年5月25日時点で既に大手マイニングプールや取引所を含む世界22か国58社が合意を示していました。

詳しくはこちらの記事をご覧ください。

「シルバート協定と『SegWit2MB』とは?ビットコインスケーラビリティ問題に新たな進展」

SegWit2Xを含むBIP91は2017年7月21日にビットコインブロックチェーン上でロックインされ、2017年7月23日には正式に有効化されています。BIP91への合意を表明した58社はビットコイン全体の取引量のうち約83%を占めており、6カ月後の2017年11月にブロックサイズ拡張のハードフォークが実行される可能性も高いと考えられています。

一方でコア開発者はSegWit2Xへの反対を表明しており、予定されているブロックサイズを上げるハードフォーク時にさらなる分裂の可能性が危惧されます。

 

オンチェーン派の隠し玉、Bitcoin Cashとは?

SegWit2Xが実現に向けて動き始めていたさなかの2017年7月17日、中国の大手マイニングプールのViaBTCが「Bitcoin Cash(BCC)」を発表しました。これはブロックサイズを8MBに拡張するハードフォークを行い、ビットコインから分裂した新たな暗号通貨を作るというものです。このハードフォークはSegWitの有効化とは無関係に2017年8月1日21時20分に実行される計画であり、これによってビットコインとは別にBitcoin Cashという異なる新たな暗号通貨が誕生することになります。

Bitcoin Cashのハードフォークがユーザーにもたらす影響は価格変動を除けばそこまで大きくはないと言われています。しかしながら、各マイニングプールが価格変動とハッシュレートの推移を見ながらビットコインとBitcoin Cashのどちらをマイニングするかを変えていく可能性は拭えません。仮にそうなるとすれば価格変動がさらに不安定になるだけでなく、採掘難易度が変わらないままハッシュレートが大きく変動することで、ブロック生成が大幅に遅延する可能性もあります。

ハードフォークが起きた際にユーザーがどのように対処すべきかについては、こちらの記事で解説しています。

「ビットコインがハードフォークしたらどうなるのか?保有者は何をすべき?」

 

自律分散型システムにおけるガバナンスの問題点とその本質とは?

Bitcoin Unlimitedの項でも述べたように、オンチェーンスケーリング派とオフチェーンスケーリング派との対立の根底にはビットコインに関する利害の不一致があると言えます。コア開発者とマイナー、そして取引所という主要な三つの主体の利害の絡み合った意思決定となりました。ビットコインの取引記録の正当性を多数決で承認することには一定の利害の一致がありましたが、システムの仕様変更に関してはそれぞれの利害が一致しなかったとも言えます。

このように大きくなりすぎてしまったビットコインコミュニティにおける意思決定を多数決で行うことには大きな困難が伴い、それぞれの取れる手段を用いて自己の利益確保に走った結果として、UASFやUAHFといった危険な状況に陥ったのだと言えます。

今回、ハードフォークや意図しない分岐のリスクはSegWit2Xの有効化によって大幅に下がったとはいえ、11月に予定されるSegWit2Xへのハードフォークが多数の同意を得て実行されるとも限りません。いわばオンチェーンスケーリングについては解決が先延ばしになっているような状況であり、スケーラビリティ問題に端を発する分裂騒動とガバナンスの課題はいまなお解決には至っていないと言えます。

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BBC編集部
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